第66話 戦地へ
兎の国に足を踏み入れた俺は【絶対服従】を使い、1000ポイントのMPを消費した後に、最も近くに在る[砦]で休憩することにした。
その砦の指揮官である獣人型でオスのワーシープ(羊)によると、現在、西方領主と北方領主に、南方領主と東方領主が、それぞれの領境で睨み合っているそうだ。
「どっちが王子たちの味方なんだ?」
と、訊ねる俺に、ワーシープが、
「西方軍と南方軍でございます。」
と答えた。
「中央の動きは?」
と、問いかけたところ、
「一応は、全ての諸将が新王に従っていますが、反旗を翻す機会を窺っている者たちも少ないとか…。」
「それを分かっているあの裏切り者は、北と東に援軍を送り込めずにいるようです。」
と述べたので、
「んんー? つまり…、北方軍に東方軍が挟み撃ちにされるかもしれないから、それを嫌がっていると?」
と、聞いてみたら、
「左様です。」
と頷いたのである。
「ただ…。」
と、再び口を開いた指揮官が、
「二将軍は、参陣するようでございます。」
と説明した。
ソイツラは、[烈風将軍]と[凍氷将軍]を名乗っているらしい。
もともとは四将軍のNO.3にNO.4だった連中である。
“風”の方は[ヴォルパーティンガー]で、“氷”は[アンテロープ]との事だ。
「西方と南方の総大将らのレベルは?」
との更なる質問に、
「西方領主がLV.114で、南方領主が116でございます。」
と、教えてくれた。
ちなみに、各領主たちの先祖は、王子の縁戚にあたるらしい。
本物の王家に忠義を尽くす者もいれば、血筋など関係なく強い側になびいて利を得ようとする不逞の輩もいるようだ…。
翌朝――。
俺は、二つのチームを作った。
俺と、中将軍に、ミノタウロス元帥や、ジャイアントアント参謀役などは、A班だ。
勇者/聖女/魔法剣士/生徒会書記の2人組/大将軍と小将軍/トロールらは、B班である。
幸いにも、【瞬間転移】を取得しているモンスターが、王妃と王子の護衛や、ここの砦に、1体ずついたので、彼らによって現場へと向かうことが出来た。
なんでも、烈風は北方陣営に、凍氷は東方陣営に居るそうだ。
なので、A班が西方領主の元へ、B班は南方領主の所に、赴くことにした。
よりレベルが高い敵を、俺が請け負うために。
また、西方と南方の大将たちは、俺に“服従”していないので、王妃や王子に衛兵らも分かれてもらった。
この面子がいれば、俺たちのことを信用してくれるだろうから。
他にも、【クレリック】が勝敗の鍵を握っているので、勇者一行の約400名も半々にしておいた。
ま、何はともあれ、別々の戦場へと出発する俺たちであった―。
西方軍の総大将でもある領主は、身長が168㎝ほどのワーラビットだ。
半獣でメスの彼女は、背中あたりまでの長さがある薄桃色の髪を三つ編みにしていた。
耳は白色で、瞳は赤く、割と綺麗な顔立ちをしている。
白銀の装備品は【剣士】用だ。
そんな西方領主が、野営地にて、
「王子!」
「ご無事で…。」
と、跪く。
兎の王子に、
「楽にしてください。」
と声を掛けられ、
「…では。」
と、起立した彼女が、
「ところで、王子。」
「この者たちは?」
と怪しみながら、俺らのことを軽く睨み付けてきたので、ジャッカロープである王子が、半ば慌てたように、それまでの経緯を説明した。
「成程。」
「理解はしましたが…、本当に信じてもよろしいので?」
「“トーキーの魔人”といえば、手当たり次第に〝服従〟させて、従属国を増やしているとか。」
「ここに来たのも、それが狙いでは?」
と、訝しがる領主を、
「それは、いくら何でも無礼ですよ!」
と王子が諫める。
「ですが、王座を奪い取った、あの“アルミラージ”の件もありますし。」
「〝万が一〟を想定して、警戒すべきでございましょう。」
と、西方領主が苦言を呈したところ、
「それは、確かに、そうですが…。」
と兎の王子が両耳を下げて、意気消沈してしまったのだ。
(仕方ねぇな。)
と、思った俺は、〝分からず屋〟の彼女に【チャーム】を使い、
「二人っきりで話しをシようじゃねぇか。」
と持ち掛けるなり、直径8M×高さ4Mのひときわ大きな、領主用のゲル(テント)内に移動して、ハッスルしたのであった―。