第65話 肝を据えて
「えッ!? 僕がですか??」
と驚く王子に、
「表向き、〝王であった父親によって城から逃がされた後に、国内で仲間を集めて、無念を晴らした〟という事にしたい。」
「その方が、俺たちのことを伏せておけるし、お前たちも他国への面目が保てるだろう。」
「あくまで、〝王子を中心に成し遂げた〟とするのが、得策だ。」
と、説明したところ、先ほどのワーラビットが、
「断る理由はないと思います。」
「ロードに相応しいのは、あのような裏切り者ではなく、正統な血筋であられる王子なのですから。」
と同調したのである。
兎たちのところは、“魔物の国”のなかでも、一定の秩序があるようだ。
何はともあれ、
「……、分かりました。」
「ご主君の案に従いましょう。」
と、受け入れる王子であった。
俺たちは、城の中庭に集まっていた。
サータ王と、トーキーの姫である聖女が、何かしら談笑している。
どうやら、サータの王が、今度、トーキー王の所へ挨拶に伺うらしい。
俺が、
「そろそろ、行くか?」
と声を掛けたら、聖女が、
「それでは、お越しになられる時を、楽しみにしております。」
と、姫らしく、お辞儀する。
「ええ、いずれ。」
と会釈したサータ王が、
「ご武運を、ご主君。」
と、挨拶してきたので、
「うむ。」
と頷いた。
「では。」
と口を開いた、ここの王宮魔術師によって、俺たちは、東端に在る[城塞]付近へと、【瞬間転移】したのである…。
国境への道すがら、兎の獣人たちに、
「謀反を起こしたという、その四将軍筆頭は、どんな奴なんだ?」
と、聞いてみたところ、王妃が、
「“アルミラージ”でございます。」
と答えた。
「それって、あれだよな?」
「ドラ○エに登場する…。」
と、一年生書記に訊ねてみたら、
「ええ、間違いありません。」
「ですが…、伝承によれば、〝非常に獰猛な肉食獣であり、額に生えている螺旋状の角で、自分よりも大きい相手を刺し殺して、軽々と食べつくす〟と、なっていた筈なので、かなり強いと認識しておくのが良いでしょう。」
と解説してくれた。
「流石、何でも知っているな、お前は。」
と、感心したところ、
「私は、何でもは知りません。〝知っていることだけ〟ですよ。」
と述べたので、
「いや、“羽○翼”かよ!」
と、ツッコんだら、
「ちなみに、私の推しは、“八九寺○宵”ちゃんです!」
と返してきたのである。
いささか会話が噛み合っていない気がしたが、面倒くさかったのでスルーした。
「で? だ…。」
「その下剋上しやがったアルミラージのレベルや性別は?」
と、訊ねた俺に、護衛のヴォルパーティンガーが、
「確か…、クーデター以前は、140だったと、記憶しています。」
「更に、将軍のNO.3だった者はLV.135で、NO.4は133でした。」
「その全員が“オス”であります。」
と教えてくれたのである。
「マジかよ…。」
なかなか暗い見通しに〝ゴクリッ〟と生唾を飲み込んだ俺ではあったが、【クレリック】たちの“加護”と[大地の槍]があれば「勝てるだろう」と、脳裏に光明が差したのだった―。