第64話 兎の国の状況
兎族の王妃が、
「私どもの国は、我が夫でもあり王である“ヴォルパーティンガー”が治めておりました。」
「しかし、1ヶ月ほど前に、四将軍の筆頭であった者が謀反を起こしたのです。」
「これに、NO.3とNO.4のジェネラルも従ってしまいました。」
「国王とNO.2の将軍が対抗するも、旗色が悪く、私どもの後ろに控えている家臣を警護につけて城より脱出させたのでございます。」
と、経緯を説明した。
俺が、
「何故、他の魔族を頼らなかったんだ?」
「モンスター達にとって、人間は敵だろうに…。」
と疑問を呈したら、
「夫より〝断られるかもしれんが、サータ王に、トーキーの魔人殿との縁を繋いでもらい、助力を願え〟との指示を受けましたので、それに従ったのでございます。」
と、答えたのである。
「俺の情報が洩れているのか?!」
と少なからず驚いたところ、身長が162㎝くらいで、亜麻色のショートヘアであり、瞳が茶色い、武闘家と思しき、メスのワーラビットが、
「恐れながら、近隣諸国の動向は常に探っていましたので…、かつて起きた〝ゴブリン国とのいざこざ〟を入手しておりました。」
と、述べたのだった。
「成程…。」
と理解を示しつつ、
「結局、お前たちの祖国が、どうなったのかは、分からないんだよな?」
と、訊ねてみたら、王妃が、
「サータ王国へと渡って来る頃に、〝クーデターが成功した〟との噂を耳にしました。」
「なので、おそらく、夫は、もう…。」
と目頭にハンカチを当てたのである。
王子が自身の両手を、膝の上で、〝ギュッ〟と握りしめ、
「この政変に納得していない者たちが各地で蜂起したとも、聞き及んでおります。」
「なので…、僕たちは、父の無念を晴らすだけでなく、彼らの為にも、全てを奪還せねばならいのです!」
と、涙を堪えて決意表明したのだ。
「お前らを疑う訳ではないが、俺たちをおびき寄せる罠かもしれねぇからな…。」
「ふぅー。」と軽く息を吐いた俺は、
「悪いが、念の為に、〝支配〟させてもらうぞ。」
と【絶対服従】を使ったのだった。
この国の東端に在るという[城塞]の側まで、ここの魔術師が【瞬間転移】で連れて行ってくれることになったのである。
サータ王が、
「こちらからも軍勢を送り込みましょうか?」
と、提案してくれたが、
「いや、あまり大事になってしまうと、魔王に知られるかもしれん。」
「〝魔物たちの権力争いに人族が介入した〟となれば、訝しがって、なにかと調べまくるだろう。」
「そうなれば、俺のこともバレれてしまう危険性がある。」
「現時点では勝てないだろうからな…。」
「正直、ラスボスとの戦いは未だ避けておきたい。」
「そこで、だ。」
「今回は、王子である彼に、“小さき英雄”になってもらうとしよう。」
と提案したのであった―。