第63話 サータ王国にて
『ご多忙なところ、すみません、主様。』
『私は、サータの王宮魔術師でございます。』
と、女性が声を掛けてきた。
『サータ…、急用か?』
と訊ねてみたら、
『はい、その…、サータの東に隣接している“兎族の国の王家”を称する者たちが助けを求めて訪れているのですが、我々の王陛下が〝ご主君の判断を仰ぎたい〟と申されましたので、ご連絡させて戴いた次第にございます。』
と、返ってきたので、
『ふむ? ならば、ソイツらから直に話を聞く故、そっちに向かおう。』
と述べたのだが…、うちの面子は、誰もサータ王国に赴いたことがない。
『でしたら、国境付近までお越しくだされば、お迎えにあがります。』
との事だったので、勇者一行/聖女/魔法剣士/各将軍/王都のモンスター達と、出発したのである。
魔人姉妹は、[魔石]の選定があるため、参加できない。
かつて、勇者が[カーダ要塞]に行ったことがあるので、彼女の【瞬間転移】を使って、その側まで渡った後に、徒歩で北上したのだった…。
俺と【念話】で喋った魔術師と合流し、今度は、その女性によって、サータの王城まで“転移”したところ、その[兎族]とやらがいるという客間に、案内された。
トーキーの姫である聖女と、異世界召喚代表の勇者に、ファンタジーに詳しい一年の生徒会書記だけを伴い、それ以外の面子は大広間で待機させてもらっている。
部屋に入ると、元近衛兵長だったサータ王が、
「お久しぶりです。ご主君。」
と、挨拶してきた。
「玉座の感触はどうだ?」
と半ば冷やかす俺に、
「まだまだ慣れませんな。」
と、苦笑いする。
「で?その者たちか?」
「救援を懇願しているのは…。」
と窺ったら、2体の兎型がソファから〝スッ〟と立ち上がった。
どちらも体毛が白く、瞳は赤い。
煌びやかな衣服を身に纏っているので、王族に間違いなさそうだ。
片方は身長150㎝くらいのメスで、その右隣には背丈が80㎝ほどのオスがいた。
“二足歩行の獣人”である彼女たちの頭部には、二本の[鹿の角]が生えている。
(これは??)
と、首を傾げたところ、俺の左斜め後ろにいた【クレリック】が、小声で、
「“ジャッカロープ”かと…。」
と教えてくれた。
「お初にお目にかかります。トーキーの魔人様。」
「私は、兎の国の“王妃”でございます。」
「そして、こちらは、私の子息でもある“王子”にございます。」
と、自己紹介を済ませ、お辞儀する2体の背後に控えていた護衛の者たちも、それに倣って頭を下げたのである。
顔ぶれは…、身長165㎝ぐらいのハーピーが2体と、背丈は155~160㎝で耳が白い半獣タイプのワーラビットが男女で4体に、身長が160~165㎝で毛並みは茶色く翼のある男性ジャッカロープ(?)が2体であった。
それぞれに、騎士や戦士に武闘家らしい恰好をしている。
「あの〝鷹みたいな翼〟の連中は?」
と再び一年生書記に視線を送ったら、
「“ヴォルパーティンガー”だと推測されます。」
「確か、地球においては、〝満月の夜にだけ現れ、若く美しい女性のみが見つけられる〟とかいうドイツの伝承があり…、キメラ状のUMAだったかと。」
「ですが、こちらの世界では、ジャッカロープの“進化系”かもしれませんね。」
と、またもや助け舟を出してくれたのだ。
ちなみに、8体の衛兵たちは、LV.70~80の集まりで、王妃と王子のレベルは1であった…。
兎たちの王妃と王子を着席させ、対面に在る別のソファには俺とサータ王が腰掛ける。
「それで? どんな依頼内容なんだ?」
と俺が質問してみたところ、[兎の王妃]が、いささか悲しげに口を開いたのだった―。