第61話 備えあれば憂いなし
玉座の間にて――。
まずは、ミノタウロスを、トーキー/サータ/バラーキ/グーマにおける魔物たちの[元帥]に任命したのである。
床に跪いた彼が、
「ありがたき幸せ。」
と、頭を下げた。
俺は、
「魔法剣士にも、然るべき役職を、」
と続けたのだが、彼女は、どうやら、別のモノを欲していたようなので、お望み通り俺の部屋で交尾してやったのである。
話しは変わって。
プロジェクトに関してだが。
まずは、[魔道機関車]と[飛行艇]を造るのに必要な木材調達から取り掛かる事になった。
それは、王都から東に4時間ほど歩いた場所に聳えている標高1500Mぐらいの山から調達する計画だ。
他にも、王都に居る大工などの職人らやモンスター達も、こんれに携わる。
何はともあれ、俺が思い描いた“科学的な乗り物の作成”が、本格的に動き始めた…。
ここ数日、【瞬間転移】を取得している者らが、木材の切り出しをする作業員たちの送り迎えを行ったり、昼食を運んでくれていた。
この世界には弁当箱が無いので、バスケット(籠)を使っている。
宮廷料理人達は大忙しになってしまったが、皆、「張り合いがある」と活き活きしていた。
予定では、王都の東門から徒歩で5分の距離に駅を設け、同盟を結んでいる[バラーキ]との国境付近まで線路を敷くことになっている。
空港は、その東門を出て、南東へと10分歩いた場所に置くそうだ。
魔物らも、共に、働いてくれていた。
しかし、一週間が経った頃から、雨が続いてしまったので、その期間中は、ドワーフたちが、都内で、武器や防具に裁縫などを、レクチャーしてくれていた。
なかには、自ら腕を振るう連中もいたらしい。
そのお陰もあって、先の戦いに貢献した面子に、褒美を与える事ができたのだ。
“樫の木”の杖だった【クレリック】や山羊型獣人の【魔法使い】たちには、[鉄の杖]を強化した品を渡した。
柄の色は、黒・青・緑・赤・黄と、好みに応じて、事前調査していたのである。
ハーピー(鳥)には金の胸当てと腰当てを、ラミア(蛇)には銀の胸当てと腰当てと籠手を、与えた。
どちらも、剣士風である。
ヘルハウンド(犬)の、オスにはオレンジ色で、メスには赤色の、胸当て/腰当て/籠手/脛当てを下賜した。
こちらは、銅製の武闘家用だ。
トロールには、紫色の[騎士の甲冑]と、肩当てと同化している白マントに、数本の棘がある[黒鉄の棍棒]を付与した。
魔人姉妹は、白色を基調とした、金糸と黒糸の刺繍が鮮やかな、ローブである。
ミノタウロスは、銀の[戦士の鎧兜]と、黒の首掛けマントに、銀と黒が入り混じった[鋼の斧]だ。
ちなみに、このバトルアックスは“片刃”である。
どれもこれも、[魔石]によって、攻撃力と防御力が大幅にUPしているらしいのだが…、俺にはその仕組みがよく分からなかった。
いずれにせよ、誰もが喜んでくれたようだ。
10日に亘って降り注いだ雨が止み、城の窓から空を眺めた王が、
「どうやら、雨季が終わったようですな。」
と、目を細める。
これにて、[魔道機関車]と[飛行艇]のプロジェクトが再会されたのであった…。
今、俺は、南門の外にいる。
ゴブリン女王によれば、
「アーティファクトのなかには、なにかしらの制限や対価が定められているモノもあるようじゃ。」
「例えば、〝1日5回までしか発動できん〟とか、〝遣い手のHPもしくはMPを吸う〟みたいな感じで。」
との事だった。
[火炎の剣]には〝縛り〟がないそうで、基本的には、そっちの方が多いらしい。
何故、そのような違いがあるのかまでは、彼女も詳しくは知らないそうだ。
なにせ、アーティファクトの殆どが、歴史に埋もれてしまっているのだから…。
他に、
「最初は扱いきれず、暴走させてしまう危険性があるでの。」
「実戦に先んじて、慣れておくのが良いじゃろう。」
ともアドバイスしてくれたので、
(試しておこう。)
と、思ったからである。
「興味深いので、ぜひ、見学させていただきたい。」
と言う賢者と魔人姉妹を伴って―。