第59話 追想
それは、ドワーフの国で過ごすようになった3日目の、昼飯時のことだった。
「お店を予約したので、如何ですかな?」
と、[国主]の誘いを受けたのである。
身長は140㎝くらいであり、貫禄のある体型に、肩あたりまでの長さがある巻き毛(天然パーマ)と大量の髭はブラウンで、瞳は青色と銀色が混じっている感じだ。
ここ数日、商業系・工業系・農業系などの組合と、入れ代わり立ち代わり、会議を催していたとの事で、
「挨拶が遅くなって申し訳ない。」
と述べていた。
そんな彼や国主補佐官に案内係と共に、[国立協議館]を出たところ、俺たちの眼前に〝シュンッ!〟と【瞬間転移】で現れた人物がいたのである。
「お! 賢者…、どうした?」
「呼び付けた覚えはないが??」
と、疑問を呈したところ、国主が、
「“トーキーの賢者”ということは…。」
と目を大きく開いた。
「おぉ、もしや、国主補佐官ですかな?」
と、返す賢者に、
「いや、今の儂は“国主”で…、こっちの嬢ちゃんが補佐官じゃよ。」
とヒゲオヤジのドワーフが紹介する。
「一体どういうことだ?」
と、訊ねた俺に、賢者が、
「これは失礼いたしました。」
「実は、40年ほど前に、この都で生活していた時期がありまして…、5年ぐらい。」
「こちらのドワーフ殿を始め、多くの方々にお世話になりましてな。」
「ご主君が宿泊していらっしゃると聞き及んで、懐かしさのあまり、勝手ながら罷り越した次第でございます。」
と説明したのだった。
なんでも、「森羅万象を学ぶべく、その一端として、小人族の首都でも精進していた」そうだ。
国主が〝ニコニコ〟しながら、
「お前さんは、本当に、各分野に対して熱心だったからなぁ~。」
「逆に我らが、その知識に助けられたことも、よくありましてな、魔人殿。」
と、語りだすも、現国主補佐官に、
「立ち話もなんですから、移動しませんか?」
と促され、
「おッ! そうじゃな。」
と、納得し、
「一緒にどうかね? あそこの爺さんも、さぞや喜ぶじゃろうて。」
と賢者を伴ったのであった。
協議館から5分ほど南に歩いた場所に、その飲食店は鎮座している。
1階建てだか、店内は割と広い。
150人くらいの客を収容できるんじゃなかろうか?
その殆どが木造りで、俺たちの世界に置き換えれば、洒落たウエスタン調だ。
料理長でもあるオーナーが、俺たちのテーブル席に来て、
「いやいやいや、これはこれは、久しいのぉ!」
「だいぶ年を取ったようじゃが、元気にしておったか!?」
と、賢者と両手を握りしめ合った。
背丈が135㎝程のサンタクロースといった感じだが、シェフらしい服装をしている。
被っている帽子は、某・海賊たちの冒険譚に登場する[赫足の○フ]みたいに高い。
賢者と幾らかの言葉を交わし終えた店長が、
「それでは、腕によりをかけようぞ!」
と自身の左胸を右の拳で、軽く〝トン〟と叩いたのだった。
そこからは、運ばれてくるご馳走に舌鼓しながら、在りし日の賢者たちや、“科学”に関する話題で、盛り上がったのである。
国主が、人間用の宿直室を賢者にも提供してくれた。
それからの彼は、晴れの日も雨の日も、旧知の者たちを訪ね、古き友情を温め直したようだ。
なかには、既に世を去っているドワーフなどもチラホラいたようだが、「全員の墓参りができたので、良かった」と微笑んでいた…。
俺が、この都に赴いてから8日目の午前10:00頃。
中央広場に、100名の匠が集結している。
「私が厳選しただけあって、太鼓判が押せる面子です!」
と、自信満々なのは、国主補佐官だ。
「また、顔をみせろよ。」
と声を掛けた国主に、賢者が、
「うむ。」
と、優しく頷いた。
「じゃあ、ぼちぼち行くか。」
と促す俺に、
「ええ。それでは。」
と、賢者が会釈する。
かくして、俺たちは、優秀な職人集団を連れて、トーキーへと帰ったのであった―。