第58話 交渉
15畳ぐらいの室内には、書類が山積みにされている木製のディスクと、アンティーク調の応接テーブルに、2脚の黒革ソファが置かれている。
「どうも初めまして、“トーキーの魔人”殿。」
と、お辞儀したのは、背丈が137~138㎝の、女性ドワーフだ。
タイトスカートのレディーススーツは紺色である。
ショートの髪はピンク色で、瞳は青みがかっていた。
おそらく、俺とかよりは何倍も生きているんだろうが…、実年齢は不明で、13歳くらいに見える。
服ごしでも、なかなかヤラしい躰付きをしているのが分かった。
所謂“○リ巨乳”だ。
「どうぞ、お掛けください。」
と促されて、俺は、ソファに座った。
出されたコーヒーを飲む俺に、[国主補佐官]である彼女が、
「本日は、どのような御用件でしょうか?」
と、尋ねてきたので、[魔道機関車]と[飛行艇]の話をして、匠なドワーフを何人か借りたいと頼んだところ、
「そのような交通手段が生産可能になれば…、かなり潤いますね!」
〝キラキラリーン☆〟と両目を輝かせたのである。
暫し黙って考えていた国主補佐官が、
「それでは、100名の腕利きを派遣しましょう。」
「しかも、無料で!」
「その人工への給金は、こちらで負担いたします。」
と述べたので、
「良いのか?」
と、確認したら、
「ええ、こういった案件は私に一任されていますので、国主には後ほど伝えておけば大丈夫です。」
「ただし…、2つ、条件がございます。」
と真顔になった。
「どんな??」
と、質問してみたところ、
「まず、私どもは、“労働の自由”の名の下に、手広く仕事を請け負っていますので、噂の〝絶対服従〟は、ご容赦ください。」
「魔人殿による“ドワーフの独占”を免れさせて戴くためにも。」
「次に…、トーキーに送り込んだ者たちが帰国した際には、彼らが得た知識にて、こちらでも、その、“機関車”なる代物と”空飛ぶ船”を造ることを、お許しください。」
と返ってきたのだ。
何とも商魂たくましいことやら…。
まぁ、別に、それらを呑むのは構わなかったのだが、何だかマウントを取られた気がして、癪だったので、
「こっちからも1つだけいいか?」
と、窺ったところ、
「私に対応できる内容でしたら、ドンと来いですよ!」
と承諾したので、【チャーム】を使ったのである。
服従させた訳ではないから、セーフだろう…。
なにはともあれ、俺達はドッキングしたのだった。
それ以来、彼女は、俺のことを“逞しき御方”と呼ぶようになったのである。
[国主補佐官]の、
「100名の匠を招集するには数日かかるので、暫く滞在しては如何ですか?」
「余っている宿直室を、お貸しいたしますので。」
との提案を快く受け入れたところ、
「それでは、先ほどの“コボルド”に、都内を案内させましょう。」
と、A4サイズくらいの紙面に、万年筆で〝スラスラ〟と文字をしたためていく。
どうやら、[任命書]らしい。
そんな彼女に、
「そう言えば、ホルスタウロスによると、先代のミノタウロスロード…、つまりは、かつての小将軍が、ドワーフから“大地の槍”を手に入れたとか?」
と質問してみたら、国主補佐官が〝ピタッ〟と筆を止めて、
「ええ。とある貿易商が、どこかで見つけてきたアーティファクトを、そのミノタウロスに売り付けようとしたものの、力ずくで奪われたうえに、殺害されてしまったそうです。」
と、悲しそうに語ったのである。
「入手先は不明ということか?」
と更に訊ねたところ、静かに頷いたのだ。
「…、……、………、…………、さ、書けましたよ。」
「きっと、扉の近くで待機している筈ですから、渡してください。」
との事であった。
〝ガチャッ〟と押し開いたドアを、〝パタン〟と閉めて、フッと右に視線を送ると、例のコボルドが、〝ハッ!〟としながら俺を見て、気まずそうにしたのである。
何故なら、彼女は、壁に背中をもたれかけながら自慰行為に耽っていたからだ。
おそらくは、俺と上司の情事が聞こえていたのだろう。
犬の獣人なだけあって、耳が良すぎるようだ。
そそくさと身なりを整え直したコボルドに、国主補佐官からの書状を与える。
その内容を確認した彼女が、
「了承しましたワン。」
「それでは、トーキーの魔人様が行ってみたい場所へと、お連れ致しますワン。」
と、お辞儀したので、
「じゃあ、宿直室に向かうとするか。」
「お前も、イキたいだろう?」
と〝ニヤニヤ〟しながら誘ってみたら、
「は…、いえ、あの、そのぉ…、くぅ~ん。」
と、しどろもどろになりつつ、目を泳がせた。
ダイニングとリビングが8畳ずつ在り、人族サイズの食卓やベッドなどが備え付けてある室内にて、俺たちは、交わったのである。
しかし、それからが大変だった…。
[国主補佐官]や[案内係]との逢瀬を知ったメスどもが、次々と訪問したからだ。
特に、雨の日なんかは、外に出なかったこともあって、俺の部屋の前には順番待ちができていたのである。
その面子は、ケット・シー(猫)/クー・シー(犬)/ワーウルフ(狼)/ワーラビット(兎)など、多種であった―。