第54話 宴
ガシャンッ!!
と槍を落として、
「グオオオオッオアアッオオォォ―ッ!!!!」
と、断末魔の叫びをあげる[牛の王]は、水色の生物に全身を包み込まれている。
その体の至る部位から、
ブシュウゥゥゥーッ!
と煙が昇っていた。
もがき苦しみながら、両手で剥がそうと試みるも、相手が〝半液体状〟であるがために、掴めずにいるようだ。
どうにか立ち上がった俺が、
「ありゃ、どう見ても、“スライム女王”だな。」
と、呟いたら、ゴブリンロードが、
「うむ。如何にも!」
と頷く。
「で? どういうことだ??」
と、訊ねる俺の方を振り向いたゴブリン女王が、
「おお、そうじゃったな。」
「実は、昨夜、そこの魔人姉妹から“伝言”があってのぉ。」
「アーティファクトを手に入れた猛牛と対決するやもしれん、とのことじゃったから、スライムの国に立ち寄って、ここに急行したのじゃ。」
「ただ、途中で雨が降ったからのぉ~。」
「鳥の翼が濡れてしまったら飛べなくなるので、雨宿りしてから、駆け付けた次第じゃ。」
「天気さえ良ければ、もう少し早く到着できたんじゃが…、ま、お前様が無事でなりよりじゃわい!」
と経緯を説明したのである。
魔人姉妹に視線を送ったところ、姉が、
「差し出がましい真似をして申し訳ございませんでした。」
「どんな罰でもお受けいたします。」
と、頭を下げ、妹が、
「持ち掛けたのは私でございます!」
「お罰しになるのであれば、どうか私だけを…。」
と続いたので、
「いや、お陰で命拾いしたから、不問に付す。」
と、告げたら、2人とも〝ほっ〟と安堵したようだ。
ミノタウロスロードが静かになっていたので、そっちを見てみたところ、既に、骨だけになっていた。
「いや、もう止めてやれよ。」
と言う俺に反応したスライムロードが、〝シュルルルルンッ!〟と人型の姿になり、
「どうも、お久しぶりでございます。主様。」
と、会釈する。
俺の背後から、トーキーの者たちが、
「うおおおお―ッ!!!!」
と大歓声を上げながら、走り寄って来ていた。
俺が、[牛の王]の槍に触れたところ、〝シュンッ!〟とサイズが小さくなった。
柄は長さ1.5M×幅8㎝に、円錐部分は長さ1M×最大幅24㎝になったのだ。
その槍を右手で縦方向に持ち上げた俺が、
「これは?」
と、首を傾げたら、魔人の姉が、
「アーティファクトのなかには、持ち主によって大きさを変える物があると、聞いたことがございます。」
と解説し、妹が、
「ほんの、ごく一部だけのようですが…。」
と、補足した。
(まるで、ドラ○エ5における“天空の武器と防具”みたいだな。)
と思っていたところ、スライム女王が、
「いずれにせよ、主様を“マスター”として認めた証しでしょう。」
と発言したのである。
「この武器の名は?」
と、質問する俺に、ゴブリンロードが、
「確か…、“大地の槍”じゃ。」
と答えたのだった。
その日は、夜を徹しての祝勝会となったのである。
グーマ軍とミノタウロス軍は、いささか居心地が悪そうだったが、
「最早、お前たちも、俺の眷属なんだから、気にせず楽しめ!」
と、告げたら、誰もが遺恨の垣根を越えて、飲めや歌えや踊れやの、どんちゃん騒ぎになっていったのだ。
俺の左隣に座っているゴブリン女王に、
「いつの間に、魔人姉妹と連絡を取り合う仲になったんだ?」
と尋ねたら、
「1ヶ月くらい前に、トーキーの城へ遊びに行ったではないか。」
と、返してきた。
更には、俺の耳元で、
「あの時、妾を愉しませておいて正解じゃったのぉ~。」
「もし無下にしておれば、助けんかったわい。」
「いししししッ!」
と笑ったのである。
俺から少し離れた後に、
「次は妾の城にて、今回の褒美を、たぁんまりッ、くれ給ぉう。のぉ?愛しき御方よ。」
と、エロい顔つきになった。
俺の右隣に居るスライムロードが、
「私も、ご褒美が欲しいのですが…、我々スライムは性交を為しませんので、エドゥ王都へ伺っても宜しいでしょうか?」
「人間の街や暮らしを見てみたいのです。」
と述べたので、
「構わん。明日、軍勢の殆どを帰還させる故に、同行せよ。」
「客室を用意するよう、王へ伝えおくから。」
と、許可したところ、嬉しそうにしたのであった―。