第53話 明暗
ズシンッ!ズシンッ!
と地を踏みしめる音を響かせながら、
「お前ら全員、皆殺しにしてやるぞぉおッ!!」
と、両目を真っ赤に充血させたミノタウロスロードが近づいてくる。
ちなみに、コイツの右頬には〝大きな十字傷〟があった。
“抜刀斎”として有名な[緋村○心]の逆バージョンみたいに。
俺たちの2Mほど手前で歩みを止めた[牛の王]が、自身の右下の地面を、槍の切っ先で掬い上げた。
次の瞬間、宙に舞った数百もの土の粒が、大きな塊に変化したのである。
まるでF○シリーズのクリスタルみたいな形をしているそれらは、幅が1Mで、長さは3Mあるようだ。
明らかに強度を増して、俺たちに迫ってくる。
直径10Mの青い魔方陣を慌てて出した俺は、同じ数だけの“氷撃”を即座に飛ばした。
その形と大きさは、敵の“土の塊”に類似している。
これらの全てが、
ズバァンッ!ドゴォンッ!
と粉砕しあう。
俺は、息つく暇を与えず、〝氷漬け〟にしようと試みるも、ミノタウロスロードが、今度は、槍の先で、地に、左から右へと、素早くラインを引いた。
すると、そこから、厚み1M×横4M×縦8Mの“土の壁”が、
ドドドドッドォオ―ンッ!!!!
と、せり上がったのだ。
これによって、俺の攻撃は防がれてしまったのである。
「にゃろぉ~ッ!」
と悔しがる俺を、ロードが「フンッ!」と鼻で笑うのだった…。
その後の俺たちは、[ミノタウロスの王]と、どうにかこうにか渡り合えていた。
が。
とうとう、【加護】のタイムリミットが過ぎてしまったのである。
途端に歯応えが無くなったことを感じ取ったミノタウロスロードが、槍の先端を、地面に、
ズドンッ!!
と、突き刺したとろ、あの〝ドーナツ状の隆起〟が発生して、ロードの四方八方に居た面子が弾かれた。
例外なく、俺も。
これにより、20体ぐらいの魔物が命を失い、他の連中も死にかけている。
ここ迄で、[ポーション]と[ハイポーション]を使い果たしたのと、【クレリック】たちが遠く離れているので、直ぐには〝治癒〟が出来ない。
片膝を着き、剣を杖代わりにしている俺の側に、[牛の王]が寄って来る。
(終わった…。)
と思い、落胆する俺から、力が次第に抜けていく。
その時だった。
俺たちの頭上を、割と大きめの影が通り過ぎていったのは。
それとほぼ同時に、
ヒュゥゥゥゥ―ッ!
と、空を裂く音が聞こえてきて、
俺とミノタウロスロードとの間に、
ズダンッ!!
と着地した者がいた。
こちらに背を向けたままで、
「どうやら、ギリギリだったようじゃのぉう。」
と、口を開いたソイツが右手に持っている剣が、〝メラメラ〟と燃えている。
そんな俺たちの10Mほど先に、あの[双頭の鴉]が着地しようとしていた。
俺は、
「ゴブリン女王?!」
「何で、ここに!?」
と驚いた。
ゴブリンロードが、[牛の王]から視線を外さずに、
「ふむ?? 聞いておらなんだか?」
「まぁ、良い。」
「詳しい話は後程じゃ、お前様よ。」
と、述べるなり、[火炎の剣]を右から左へと薙ぎ払う。
ガキィインッ!!
と槍で受けたミノタウロスロードが、
「ふんッ!ゴブリンなんぞ、儂の相手にならんわぁあッ!!」
と、怒鳴ったのである。
そこからは、互いの武器を、何度となく打ち付けていた。
ガァンッ!
ガシィンッ!
と鈍い音を響かせながら。
だが、如何せん、体格に差がありすぎたようだ。
ミノタウロスの王が振り下ろした槍を、ゴブリン女王が剣を横にして受け止めるも、パワー負けして、膝が曲がっていく。
「残念だったな。」
と、余裕綽々な[牛の王]に、
(無理だったか…。)
と俺たちが諦めかけていたところ、ゴブリンロードが、
「汝がの。」
〝ニィッ〟と口元を緩めた。
「強がりを、」
と言いかけたミノタウロスロードの背後から、水色で半液体状の物体が、
ブワッ!
と、巨大な風呂敷のように広がりつつ、襲い掛かったのである―。