第50話 因縁
グーマ王国が提示した期限を明日に控え、野営地には約800万人の兵士と、およそ2万体の魔物たちが集結していた。
雨上がりの空の下で、夕食を取りながら、ミノタウロスに、
「祖国と殺り合う訳だが…、大丈夫なのか?」
「向こうには、お前と旧知の仲の奴らもいるだろうから、王城で待機しててもいいんだぞ。」
と、声を掛けたら、
「いえ、家族も、親友たちも、全て失いましたので…。」
と目を細めた。
「……、言いたくないら別に構わねぇんだけど…、お前は何でこの国で生活していたんだ?」
と、聞いてみたところ、
「もともと、かの国では、王を頂点とした“ロード派”と、大将軍を筆頭とした“アンチロード派”が、長い間、争っておりました。」
「兄弟である中将軍と小将軍は、どちらもロードに付き従っていたのですが…、今から半年ほど前に、我の叔父でもある小将軍が〝漁夫の利〟を得んとして、離反しおったのです。」
と回想して、〝ギリッ〟と奥歯を噛み締めた。
更に、
「母は数年前に病で世を去っており…、中将軍であった父と、二体の兄が、末っ子である我だけを逃がしたのです。」
「父は、〝よもや、アーティファクトを手に入れた、あ奴には勝てぬであろう。お前は生き残って、強くなり、いつか必ず、仇を討て〟と、我に希望を託したのでございます。」
と、言葉を続けたのだ。
俺は、
「何?!」
「アーティファクト!?」
と驚き、魔人姉妹も目を丸くする。
勇者が、
「なんですか?」
「その“アーティファクト”というのは??」
と、質問してきたので、
「非常に厄介な代物だ。」
「その裏切り者が、どんなアーティファクトを手中に収めたかまでは分からんが、もし、武器であれば、攻撃力を大幅に上昇させる。」
と答えたのだった。
(不味いことになりそうだな。)
と、少なからず不安に駆られる俺の肌を、夕暮れ時の冷たい風が撫でていた…。
翌日の昼過ぎ、小雨が降るなか、両陣営が400~500Mの距離で睨み合っている。
グーマ軍も、ミノタウロス軍も、それぞれ500万ずつの、計1000万といったところだろう。
当然、牛ども以外のモンスター達も数多く見受けられる。
地上15M程の位置で【可視化】を使ってみたら、魔物の軍勢の中に、LV.115/武器装備での攻撃力は905、LV.118/武器装備での攻撃力は926、LV.137/武器装備での攻撃力は2466、という三体が居た。
(確か、ゴブリン女王が“火炎の剣”を扱っていた際の攻撃力が“2072”だったから…、あのレベル137が“牛の王”って事か?)
(多分、きっと、そうだろうな…。)
と思った俺が、速攻で【絶対服従】を発動させる。
当初の予定では、全軍で突撃して、敵の半数ぐらいを倒し、こちらに喧嘩を売ったことを後悔させてから、屈服させたるつもりだったのだが、そんな余裕はなさそうだったので、変更したのだ。
【伝言】で、グーマ軍とミノタウロス軍の双方に、
「その三体を討て!」
と、命じる。
ちなみに、ここ迄で俺が消費したMPはトータルで106だ。
最後尾に控えているソイツらを、囲むように襲い掛かった連中が、次の瞬間には宙に舞っていた。
新たなロードであろう[黒牛]を中心として、地面がドーナツ状に隆起したのである。
表現が難しいのだが…、そいつを軸とした直径4Mの範囲内は空洞となっており、その周りにて、幅10Mに及んで地面が突き上がったのだ。
高さは1Mくらいのモノから、20M程までと、様々ではあるが、岩ぐらいの硬さに転じたのだろう、
ズドドドドドドドドオオォォンッ!!!!
と多くのモンスター達に人間が、弾き飛ばされた。
全身の骨を砕かれたり、四肢が千切れた者もいるようだ。
その光景に、こちらのミノタウロスが、
「ブオオオオォォォォ――――ッ!!」
と吠える。
間違いなく“憎き仇”なのであろう。
次第に勢いを増していく雨が、緊張と悲愴とが交錯する戦場を、容赦なく打ち付けていく―。