第5話 森林、服従。
地上に出た俺は、自分が転がり落ちた崖に向かった。
まだ皆が戦っているかと思ったのだが…。
俺は自分の目を疑った。
何故なら、あの魔物たちが人を喰っていたからだ。
絶句して硬直した俺に一体の蟻のモンスターが気付いた。
それに釣られるように他の魔物たちも俺の方を見て、一瞬の間を置いた後に、一斉に襲い掛かってくる。
焦った俺は、そいつらに向けて両の掌を突き出し、
「服従しろッ!!」
と命令した。
その場にいたモンスター達がピタッと止まり、平伏する。
片膝で跪いた者もいれば、地面に両膝を着けている者もいて、様々だが、全員が俺に対して頭を下げていた。
「ふぅー。危なかったぁ…。」
と安堵しながら、
(ん?こっちの方が強いから、倒せたんじゃないか?全員…。)
と、思った。
(しかし、まぁ、平伏させたから良いか、もう。)
との結論に至った俺は、
「人間たちとの戦いは、あの後どうなったんだ?」
と、魔物どもに聞いてみた。
すると、
『200人程を倒したところ、他の者たちは退却しました。主様。』
と、何者かが俺の脳内に語り掛けてきた。
それは、先ほど最初に俺に気が付いた蟻のモンスターで、どうやらメスのようだ。
声が女性だったのと、胸部が膨らんでいるように見えたので、そう思ったのだが…、全身が甲殻に覆われているので判別が難しい。
でも、アレは乳房に違いなそうだ。
「つまり、あいつらは、仲間を見捨てて逃げ出した、という事か…。」
『はい。左様にございます。』
(腐った奴らだな。)
と思うと、怒りがこみ上げてきた。
『失礼ながら、ご主君。』
と、別の声によって、我に返る。
相手は赤目の黒犬で、男性の声だった。
「どうした?」
と聞いてみたところ、
『恐れながら、先に食事を済ませても構いませんでしょうか?我ら一同、数年ぶりの人肉に我慢の限界ですので…。』
との事だったので、
「あ、あぁ、分かった。好きにしろ。」
と、許可した。
多分、魔物と思しきアイツと同化したからだろう、人々がモンスター達に捕食されるのは当然の摂理だと、結局は受け入れてしまう俺がいた。
とは言え、知り合い連中が喰われる場面を見るのは忍びなかったので、俺は少し離れて、風景を眺めていた。
10分ほど経っただろうか、
『お待たせ致しました。主様。』
と、声を掛けてきたのは、鳥型の魔物だった。
「この森林に生息しているのは、お前らで全員か?」
と質問してみたところ、オスの黒山羊が、
『いえ、ほんの一部でございます、ご主君。』
と、答えた。
「俺より強い奴はいるのか?」
と訊ねてみたら、
『いいえ、ご主君ほどの強者はおりません。』
との事だった。
「そっか…。」
と返した俺は、暫く思案した後に、上空30M程の高さまで浮いて、
「この森に生息している者は皆、服従せよッ!そして、我が下に集え!!」
と命令して、着地する。
すると、あちらこちらから、ドドドドドッと地面を蹴る音や、バサバサバサバサッという翼をはためかせる音が聞こえてきた。
その後、俺の周りを囲むように集結したモンスターたちが、恭しくひれ伏した―。