第45話 新たなスライムロード
彼女たちは、[魔人]であった…。
玉座に腰掛けた俺が、二将軍を立たせる。
どちらの身長も165㎝前後で、肌は青く、瞳は赤い。
腰あたりまでの長さがある髪は紫色で、頭の左右からは、闘牛とも悪魔とも言える黒い角が生えていた。
2体ともに、美形であり、【魔導士】みたいな服装をしている。
「お前たちは、よく似ているようだが?」
と、聞いてみたら、
「左将軍である私が姉で、こちらの右将軍が妹でございます。」
と返ってきた。
「ふ…む。で?」
「何故、“スライム”ではなく、“魔人”のお前たちが、この国の将軍なんだ?」
と、疑問を呈したところ、首あたりで髪の毛を一つに束ねている妹が、
「元々、各国を旅して回っていた私たちは、20年ほど前にこの地に訪れ、先代の王だった“パァラァラァイズスライム”に依頼されて、王城で生活しながら、ある研究に明け暮れておりました。」
と語りだす。
「それは、〝メタル系に知能を持たせることは可能か?〟というものでした。」
「〝もし、能うなら、オークどもに後れを取らずに済むようになるだろう〟との理由で…。」
代わって、姉が、
「メタル系に知能を齎せれば、〝最強のスライムに成り得る〟ので、この国に居た2体のうちレベルが高かった方に実験を試みましたが…、あまり上手くいきませんでした。」
「それでも、先王は、昨年、崩御なさる際に、〝このメタル系に王位を譲る〟〝そなたたち姉妹が補佐してくれ〟と遺言を残されたのです。」
「私たち姉妹は、それに従い、将軍となり、新しき王と共に、オーク軍を退け、和睦を結ぶに至りました。」
と、説明した。
右将軍が、
「バラーキの件は、失礼しました。」
「主様にまでご迷惑をお掛けしてしまい…。」
と頭を下げ、左将軍も、
「申し訳ございませんでした。」
と、謝罪したが、
「本当に反省しているなら、カラダで示せ。」
と従わせ、彼女たちの部屋へと移動したのだった…。
ムフフ♡な展開の後に、ベッドで〝川の字〟になって、左将軍と右将軍を腕枕してあげている。
「なぁ、お前たちは“魔人”なんだよな?」
「俺と見た目が違うようだが…?」
と質問してみたら、姉の方が、
「主様は“亜種”なのでは?」
と、首を傾げたので、[旧魔王]と同化したことを教えたところ、2人とも驚いていた。
(ま、そういう反応になるわな…。)
と思いつつ、
「そう言や、どうやって“スライムロード”と意思の疎通を図っていたんだ?」
と、聞いてみたら、今度は妹の方が、
「“伝言”のスキルを用いておりました。」
「しかしながら、ほんの僅かばかりしか知能が上昇しませんでしたので、難しい言葉は解しておりませんでした。」
「例えば…、〝オークの侵略を防ぐべく、大軍を以て、これを退けましょう〟と述べるよりは、〝オーク、倒す〟〝これから、行く〟といった簡略的なものが、分かりやすかったようです。」
と説明した。
尚、[スライムの王]が俺たちの所まで来たのは、奴の独断であり、二将軍も知らないうちに飛び出していたそうだ。
また、メタル系は知力が低いためか、先手を打つという考えはないらしく、攻撃されたら返すという、シンプルな仕組みになっているらしい。
おそらく、〝やられたら、やりかえす〟という事であろう。
「ロードには、どのような実験を試みていたんだ?」
と、訊ねてみたところ、左将軍が、
「私どもで“アーティファクトを模した魔石”を作ってみたのですが…、失敗に終わってしまいました。」
と答えた。
「なに?! アーティファクトを作れるのか??」
と、疑問を呈した俺に、右将軍が、
「いいえ、あくまで“擬き”でございます。」
「私どもは、“失われし古代魔法”を6~7割程度しか解読できておらず、完璧に扱うことが出来ないので、代わりに現代魔法を応用してみましたが…、上手くいきませんでした。」
と見解を示した。
「…………、お前たちは、これからどうするんだ?」
「この国のロードになるのか?」
と、窺ってみたら、姉が、
「いえ、ここは“スライムの国”ですので、余所者が頂点に君臨すれば、すぐにでも下剋上が起こるでしょう。」
「なので、私たちは、また、旅に出ようかと…。」
と少なからず憂いたので、
「じゃあ、トーキーに来ないか?」
「あそこの“賢者”と共に、古代魔法やアーティファクトに関する研究を行ってくれると助かるんだが。」
と、誘ってみたところ、
「よろしいんですか?!」
「ならば、ぜひ、お願いします!」
と揃って目を輝かせたのだった。
さて、そうなると、次の“スライムロード”を誰にするかだが…、彼女たちを除いてであれば、この国で最も強い[西方領土]に任せることにしたのである。
どちらも【瞬間転移】が使えるとの事で、妹が迎えに行ってくれた。
本人(本スライム?)が、
「主様の御命令とあらば、謹んでお受けいたします。」
と、承諾してくれたので、俺の【伝言】で国内全域に、新たに[スライム女王]が誕生したことを告げ、更に〝今後は彼女に従うよう〟下知したのだった。
魔人姉妹は、10年ほど前に、トーキーの都付近を通過したことがあるらしい。
俺たちが、姉のスキルで[エドゥ王都]の北門に出現したら、そこの守兵たちが、
「お帰りなさいませ、ご主君!」
と跪いたのであった―。