第43話 スライムの王
中央領土へ向けて、草原を進んでいたら、バスケットボールぐらいの大きさがある銀色の球体が、飛び跳ねながら迫ってきた。
時速40㎞前後で。
俺たちの10Mほど手前で止まったソイツが、音もなく人型へと変化する。
身長は170㎝くらいだろう。
目鼻に耳と髪がない。
所謂“のっぺらぼう”だ。
全身が銀色の“ペ○シマン”とも言えるが…、筋肉も無かった。
[西方領主]のスライムに、
「ひょっとしなくても、あれが“ロード”か?」
と、訊ねたら、
「はい。」
と答えた。
俺の【可視化】にて、“LV.51/HP51/MP0/攻撃力1020/防御力5100/素早さ510”と判明する。
そんな[スライムの王]に、
「メタルの敵討ちか?!」
と、問うたが、返事はない。
ま、耳も口も付属していないのだから、仕方ないのだが…。
(じゃあ、二将軍は、どうやってコミュニケーションを取っていたんだ? 筆談?? いや、スライム同士でテレパシーが使えるとか?)
そこら辺の事を西方領主に聞こうとしたが、微動だにしないロードが何だか不気味で、目が離せなくなってしまった。
(戦うつもりがないんだったら…。)
と迂回を試みるも、即座に立ちはだかれた。
「やるしかなさそうだな。」
と、覚悟を決めた俺は、スライムロードを包囲させる。
レベルの高い者たちを最前列に、低い連中を最後尾に配置して…。
右手を挙げた俺は、
「魔法を使える奴と、狙撃手は、構えぃッ!」
と命じ、
「放ってぇいッ!!」
と、手を振り下ろした。
360°全方位から、身体中に攻撃をくらった[スライムの王]は、〝ボッコ ボッコ〟に凹んだものの、1~2秒で元に戻った。
それはまるで、[ターミ○ーター2]の敵(シュ○ちゃんじゃない方)みたいに。
“半液体であると共に半金属”の意味を理解したところで、スライムロードが〝ギュンッ!〟と独楽のように一回転した。
その際に、両腕を15Mぐらい伸ばして。
反時計回りで、〝左腕、からの、右腕〟が、鞭のように襲ってきた。
咄嗟に、しゃがむ者たちもいれば、ジャンプした連中もいたし、【騎士】に【戦士】といった“力自慢”たちは、盾や武器で身を守ったようだ。
モロに当たって吹き飛ばされ、瀕死の重傷を負った人間や魔物も幾らかいたが、幸いにも誰一人として命は落とさなかった。
地面に片膝を着いている俺の右斜め後ろから、両膝を着いている一年生書記が、
「主様、今のは、ひょっとして、あの“悪○の実”の…?」
と尋ねてきたので、
「ああ、間違いない。奴は“ゴムゴ○の実”の能力者だ。」
と、返したところ、
俺の左後方で、ジャンプしてから着地した二年生書記が、表情を崩さず、冷静に、
「んなワケあるか。」
とツッコんできやがったので、
「お前、あとで、お仕置きな。」
と、言ったら、
「ありがとうございます♡」
と頬を赤らめた。
「さて…。」
と、立ち上がって、
(確か、あの映画は、“溶炉”で倒したんだったよな…。)
と思い出した俺は、両の掌を用いて直径5Mの赤い魔法陣を展開し、
「一欠けらも残さず、消え失せよ!」
と、魔法陣と同じ大きさの炎をお見舞いした。
ゴオォォォ…ッ!!
と灼熱を浴びせ掛けたら、〝ドロドロドロォ~ッ〟と原形をとどめないフォルムになったものの、やはり1~2秒で復した。
それでも、トータルで7のヒットポイントを削れたようだ。
「つーか、たった7かよ。」
と、歯ぎしりしていたところ、[スライムの王]が、今度は、刃のように鋭く尖らせた両腕を、物凄い勢いで〝ビュオッ!!〟と伸ばしてきた。
俺はそれを、[マト○ックス]みたいに、上体を反らしてかわす。
「ふぅ~ッ。」
と安堵する俺に、一年の生徒会書記が、
「あの…、主様。“氷漬け”って出来ませんか?」
と、質問してきた。
更に続けて、
「氷で固めてから、粉砕するというのは如何でしょうか?」
と提案したのだ。
[金のゴーレム]と初めて対峙して以来、ずっと考えていた攻略法を、今この場で閃いたらしく、
(スライムロードにも通用するのでは?)
との結論に至ったらしい。
この世界の魔法は“自分のイメージ次第”なので、やればできるだろう。
一年生書記に、
「成功したら、褒美を与える。」
と、告げたら、
「じゃあ…、ベッドでの性交をば、お願いします♡!」
〝ムッハー♡♡!!〟と鼻息を荒げた。
ロードの足元に直径4Mの青い魔法陣を発動させた俺は、
「永久に閉ざされよ!」
と地面から、高さ2Mの〝氷の山〟を出現させる。
ビキッ!ビキビキッ!!ビキッ!!!ビッキィ―ンッ!!!!
と、動きを封じた俺は、全員に、
「打ち砕けぇえッ!!」
と号令したのだった―。