第42話 メタスラ狩り
それは、野営地から渓谷へと向かう道すがらのことだった。
[西方領主]のスライムが、
「主様、お伝えし忘れていた事があります。」
と、口を開いた。
「なんだ?」
と聞いてみたら、
「メタル系は、見た光景と申しますか…、感じ取った記憶みたいな映像を、共有しておりますので、我々が1体を倒せば、すぐさま“ロード”に知られてしまうかと…。」
と、語った。
「それは、あれか?」
「〝全てのエル○ィア人が、見えない道のようなもので繋がっていて、座○に記憶が送り込まれる〟とかいう…。」
とブッコんでみたところ、一年生書記の【クレリック】が、
「“ユ○ルの民と、始○”ですね。」
と、眼鏡を〝キラーン☆〟と光らせながらノッてきた。
この元ネタを知らない者たちは〝ポカーン〟としていたが、理解できる連中は男女問わず、
「つまり…、“スライムロード”は、差し詰め、メタル系にとっての○祖である。と?」
「ならば、ご主君は、我々にとっての“リ○ァイ兵長”ですね!」
などと盛り上がる。
「よせ。俺に“人類最強”の称号は勿体なさすぎる。」
「つーか、俺…、“魔人”なんだけどな!」
と自虐ネタを放り込んでみたら、意外とウケた。
一年の生徒会書記が、
「いずれにせよ、私たちは、主様に“心○を捧げる”所存でございます。」
と、例のポーズを取って締め括るのだった。
西方領主に、
「ロードに勘付かれた場合、どうなる?」
と訊ねてみたところ、
「報復のために、自ら、我々の所へ向かってくるかもしれません。」
「そうなれば、一週間以内には戦闘に突入するでしょう。」
との見解を述べたので、
「そりゃ、引き締めてかからねぇとな…。」
と、真顔になる俺だった。
今現在――。
谷底に到着した俺たちの、100Mほど先にある川の近くにソイツが居る。
見た目は、ほぼほぼ“は○れメタル”だ。
【可視化】を使ってみたところ、“LV.10/HP10/MP0/攻撃力200/防御力1000/素早さ100”であることが判明した。
「ん? そこまで素早くない?」
と疑問が生じた俺に、西方領主のスライムが、
「メタル系のスライムは、〝半液体であると共に半金属〟ですので、それなりの重量があります。」
と、教えてくれた。
成程。
ドラ○エみたいに、攻撃をかわされやすかったり、やたらと逃げ足が速いわけではないのか…。
確かに、あれは、物理上無理な気がする。
ま、ゲームだから、全然OKだ。
そこに関して異論はない。
それはさて置き!
「俺の素早さが440だから、正面からでも問題なさそうだな。」
と判断し、襲撃を開始した。
【魔法使い】たちが、それぞれに、風・氷・水を発動させたが、通用していない。
続いて、炎や雷を使うも、[金のゴーレム]のように〝ドロォ〟としただけで、殆ど効いてなさそうだ。
しかも、2~3秒後には元のフォルムに戻った。
【弓使い】たちが矢を放つも、なんだか〝プニョン〟として、刺さらない。
俺が剣を振り下ろしてみたら、〝グ二ャ~ン〟とした。
それは、〝柔らかくもあり、硬くもある〟といった、不思議な感触だ。
正直、どんな形状なのかイマイチよく解らなかった。
この時は…。
四方八方から、剣は元より、槍や、斧に、ヘルハウンドたちの爪などで、入れ代わり立ち代わり責め立てる。
それにより、少しずつではあるが、ヒットポイントを削っていけた。
(しかし、反撃してこない奴だなぁ。)
と、様子を窺っていたところ、突然、投網のように広がって、勇者一行の3人+モンスター2体に貼り付いた。
腕を含めた上半身に〝ベッタリ〟くっつかれ、その場に押し倒された面子が、足をバタつかせてもがき苦しむ。
「やばいッ! 窒息死させるつもりだ!」
と焦った俺たちが、より一層に本腰を入れて、狩りにかかる。
1分ぐらいが経過しただろうか?
メタル系のスライムが、完全な液体になって、消えていった…。
どうやら、倒せたらしい。
息を止められそうになっていた者たちに目をやると、
「…ぶはッ! げほッげほッ!!」
「ゼィハァッ! ゼェィハッ!」
「ぷっはぁあ~ッ!!」
と、呼吸している。
無事、全員が助かった。
そんな俺たちのレベルがアップした!
LV.39以下の者たちは4つ、LV.40~69で3つ、LV.70~89が2つ、LV.90以上は1つ上がったようだ。
勇者と聖女は5つもアップしている。
俺もLV.109になった。
これは、メタル系のExpだけによるものではなく、[ゴーレムのダンジョン]での蓄積も含めての結果であろう。
[スライムロード]にどこまで対抗できるかは不明だが、1つもレベルが上がらないよりはマシだ。
何はともあれ、俺たちは、渓谷から王都へと向けて発った。
そして…。
西方領主の読み通り、5日後に、ロードと相まみえたのだった―。