第4話 変貌
魔石から黒と紫が入り混じった光線が四方八方に飛んでいく。
思わず目を瞑った俺が、数秒後にゆっくり見開くと、前方にあったはずの魔石が消えていた。
俺の右手は青みがかった灰色に、爪は真っ黒になっている。
「なんだこれ!?」
と、驚く俺の脳内に、
『気分はどうだ?』
と声が響き渡る。
「どうって…、…、…、ん?痛みがない?」
ビックリした俺は起き上がって胡坐をかき、腹部をチェックしてみたが傷が無くなっていた。
というか、服装まで変わっている。
黒色でダボついているシャカシャカのスウェットみたいな衣服で、上着の真ん中には襟元から丈にかけて白いラインが入っていた。
更に、左の腰には短剣ではなく、刃渡りは65㎝で柄が20㎝の剣が納められている。
「これは一体?」
と、不思議がっている俺に、
『融合したからのう。』
との返しがあった。
「融合…。」
『うむ、ステータスを確認してみるのが、手っ取り早くて良かろう。』
との事なので、開いてみる。
この内容に、俺はまたも驚いた。
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【種族】:魔人
【ジョブ】:不明
【タイプ】:進化系
【レベル】:105
【HP】:2100
【MP】:1050
【基本攻撃力】:840
【基本防御力】:630
【基本素早さ】:420
【攻撃魔法】:炎/水/氷/風/地/雷/爆発/猛毒
※現時点での消費MPはどれも1~1000
【回復魔法】:なし
【補助魔法】:なし
【特殊魔法】:????
【基本スキル】:可視化/ズーム(視力と聴力が10倍になる)/伝言/念話/チャーム
※チャーム以外の消費MPはどれも3
※チャームの消費MPは1~1000
【ユニークスキル】:飛行/咆哮(自分より弱い者たちを30分間行動不能にできる)
※飛行の消費MPは0
※現時点での咆哮の消費MPは1~1000
【レアスキル】:全ての武器を装備できる
【激レアスキル】:絶対服従(人族と魔族を一生涯支配できる)
(ただし自分と同等以上のレベルの者は服従不可)
※現時点での消費MP1~1000
【超激レアスキル】:????/????
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「LV.105って、マジか!?」
『ん?105しかないのか?我が全盛期の時は、その倍はあったのだがのう…。』
『ふぅむ、実態を失したのが原因かもしれんのう。』
「お前、実態あったのか?」
『うむ、500年ほど前まではな。』
「いや、歳、幾つだよ!?」
『ん~、千歳以上かのぉう。』
「千…、そんなに長くココに居たのか?」
『うむ、封印されてしまったからのう。』
「誰に?」
『勇者どもにじゃ。』
「勇者って、あの??」
『ん?知っておるのか?』
「俺と同じ学校の、あの忌々しい女だろ?」
『いや、男じゃが?』
俺たちの間に、クエスチョンマークが浮かびまくる。
その沈黙を、〝黒き者〟が破った。
もう姿は、そこにはないが…。
『なるほど、分かったぞ。』
『おそらく、それは現在の勇者であろう、我が言っているのは千年前の奴じゃ。』
「…、つまり、千年前にも勇者がいて、そいつは男だったという事か?」
『うむ。』
「強かったのか?」
『まぁ、そこそこじゃったのう。』
『レベルは150前後だったと記憶しておるが…。』
「でも、負けたんだろう。」
『正直、油断したのじゃ。』
『なんでも〝統べる者〟に最終形態があったらしく…、あれは本来、格下にしか効かぬスキルなのじゃが、己の命と引き換えにすれば格上にも通用するようなのじゃ。』
「そんな事が可能なのか、あのスキルは…。」
『うむ。ただし、格上が相手の場場合は完全にコントロールできぬようで、5分ほど動きを止めるのが精一杯だったようじゃ。』
『いずれにせよ、そんな事など知らなかった我は、奴に噛み付き、吞み込んだ。』
『しかし、奴は、死にゆく刹那に、あれを発動させおった。』
『そして、我の動きが止まっている最中に、奴の仲間たちによって封じ込められてしまったという訳じゃ。』
「ふーん、…でも、この〝絶対服従〟を使えば勝てたんじゃないか?」
『その頃には無かったスキルなのじゃ、それは。』
「ん?」
『奴を胃袋に収め、暫く経ってから、得たからのぉう。』
『ま、あ奴のスキルが我の内で進化したという事じゃろう。』
『我が封印された後に〝絶対服従〟という形になったから、時すでに遅しじゃわい!ワーッハッハッハッハッハッハーッ!』
「笑いごとかよ…。」
俺は呆気に取られながらも、新た質問を投じてみた。
「なぁ、実態が有ったって言ってたけど?」
『うむ、ココに封じられて500年はのう。』
『しかし、いつの間にか、肉体は朽ち果ててしもうたわい。』
「で、影だか、霧だか、炎みたいになっていたと…。」
『うむ、その所為で、レベルが全盛期の半分になってしまったのじゃろうのぉう。』
「なるほど…。」
『さて、人の子よ、我が完全に消え失せてしまう前に聞いておきたい事は他にないか?』
「お前、消えるのか?」
『消えるというよりは、完全に同化すると言った方が正しいやもしれんのう。』
「俺とか?」
『他に誰がおる?』
「まぁ、確かに…。」
「じゃあ、この〝????〟になっているスキルは何だ?」
『それは適正レベルに到達しないと解放されん。』
『我も持ち合わせておらんかったスキルのようじゃ。』
『おそらく、汝と融合したことによって生じたのじゃろう。じゃから我にも分からん。』
「そうなのか…。」
「なぁ、お前って何者なんだ?」
『ふむ、難しい質問じゃのう…。』
『ま、強いて言うなれば、〝個〟であり〝複数体〟である、といった感じかのぉ。』
「なんんだ、それ?」
『フッフッフッフッ、さぁてのぉう。』
互いに5秒ほど黙した後に、
『うむ、どうやら、お別れのようじゃ。』
と、ソイツが言った。
「もうか?」
『名残惜しいがのう。』
「ちょっと待ってくれ、俺はココからどうやって外にでれば良いんだ!?扉や窓は見当たらないし。」
『手に入れた魔法で天井にでも穴を開けて、スキルで飛べば良かろう。』
「あ、なるほどな!」
「…、…、ありがとよ、助けてくれて。恩に着るぜ。」
『なぁに、礼には及ばん。我が力、存分に使いこなすが良い。』
『…、では、の。さらばじゃ、人の子よ。』
「ああ、さよならだ。」
もう、ソイツからの返事は無かった。
立ち上がった俺は、天井に向けて両の掌│《てのひら》を突き出し、直径4Mの青い魔法陣を展開させる。
そして、魔法陣と同じ大きさの氷の筋を発射させた。
ドッゴオォォォンッ!!!!
大きな音と共に天井に穴が開き、欠片や埃がパラパラと降ってくる。
背中から竜の翼を出現させた俺は、その穴に向かって飛翔した―。