第30話 新装
メイドの案内で広間へと足を運んでみると、王女を筆頭に、彼女の他のメイドたちや、以前、俺を採寸しに来た服飾屋の店長と2名の店員が、集まっていた。
白髪交じりの店長は、身長175㎝くらいの初老の男性で、紳士服を着用している。
店員用のスーツに身を包んでいる2人の女子は、そこの店舗に転職した〝異世界召喚者〟とのことだ。
金を基調とした煌びやかな衝立が用意されおり、その裏で着替えを済ませた俺がお披露目したら、王女を始めその場に居た者たちが、口々に、
「とっても素敵です。」
「よくお似合いですよ。」
と、一斉に褒め称えた。
お世辞であれば俺の逆鱗に触れるので、きっと本音だろう…。
いずれにせよ、俺は、黒のワイシャツに、銀色のネクタイと、少し緑がかった青のベスト&パンツという服装になった。
ベストにパンツは、2~3割ほど緑色だが、ほぼほぼ青色といった感じだ。
ショートブーツとベルトは黒色で、ベルトの左側にホルダーが付属している。
「どのような大きさの剣であっても納められるように、ホルダーのサイズは調整できるように仕上げております。」
と店長が説明したので、
「いい仕事してんなッ。」
と、褒めたところ、
「ありがたき幸せにございます。」
と礼を述べると共に、頭を下げた。
(しかし、肝心の剣は“ゴブリンロード”に折られてしまったしなぁ…。)
(そろそろ新しい物が出来上がる筈なんだが…。)
と、思ったタイミングで、男性の給仕に案内されて、武器屋の店主が入室してきた。
身長170㎝程で、50歳前後の店主は、ブラウンの髪を角刈りにしており、鼻の下と顎の髭も茶色い。
右目の下から鼻に掛けて傷が残っているのだが、剣なのか槍なのか、はたまた、斧によるものなのかは、不明だ。
スーツごしにも筋肉隆々なのが分かる彼は、元兵士との事だった。
「お待たせしました、ご主君。」
と両手で差し出された中剣を受け取った。
鞘も鍔も柄も銀色だが、ところどころ金の装飾がなされており、全体的に彫り物が施されている。
抜剣(抜刀)してみると、以前の代物よりも頑丈そうな刃が、窓から差し込む陽光を反射しながら美しく輝いた。
昼食後には、防具屋が訪ねてきた。
身長は155㎝ほどで小太りの男性店主は、バーコード禿げのチョビ髭で、こちらの年齢も50歳ぐらいだ。
彼に同行して来た2人も、転職した異世界召喚者で、1人は男子であり、もう1人は女子だった。
防具屋がアイテムBOXから取り出した、首のないマネキンには、黒のインナーとパンツに、銀の鎧が装着されている。
【騎士】よりも軽装なので、【剣士】用であろう。
こちらも、剣と同じように鮮やかな彫り物が見受けられた。
更には、膝より少し長めの黒マントが、肩当てと一体化している。
正確には、外側は黒色だが、内側は赤色で、縁は金色になっていた。
ちなみに、兜は無い。
角が邪魔で入らないから。
「マント、必要か?」
と、意見したら、女子が、
「オシャレのためでございます!主様!」
と目を輝かせたので、
「そ、そうか…。」
と、少し戸惑った。
一式を装備してみたところ、ジャストサイズで動きやすかったので、
「実に素晴らしい出来栄えだ。」
と俺が満足したら、3人とも嬉しそうに微笑んだ。
これらの納品物は、王女や国王が、
「いろいろと、お世話になっておりますから。」
と、ポケットマネーから支払ってくれた。
新作の普段着姿になった俺は、ポーションの為の工場及び栽培所に赴いた。
割と広い敷地内に建物と菜園があり、ここで様々な薬草各種を育てつつ、ポーション各種を生産している。
工場や、男性用と女性用の宿舎は、どれも石造りの4階建てだ。
まずは、ポーションに用いる薬草を品種改良するための〝薬品〟を研究すると同時に、土壌を調査しているらしい。
これは、30㎝程の長さである薬草が、朝顔やヘチマの“つる”のように伸びれば、それだけ葉も増えるとの考えだ。
しかし完成までには暫らくの時間を要すると、説明を受けた。
次に向かったのは、野球やサッカーといった野外スポーツに、バレーボールやバスケットボール等の屋内競技を行う予定地だ。
ただこれに関しては、充分な敷地を確保できそうにないので、やはりデモンストレーションを開催するより他ならなかった―。