第3話 出会い
敵と無理矢理に戦わされた人たちから悲鳴が上がる。
蜘蛛の糸で体をグルグル巻きにされた者や、蛾の羽から排出された紫色の毒粉を浴びた連中に、蜂の針で刺されて麻痺した人たち。
そこに、鳥が翼を羽ばたかせて起こした長さ1.5Mぐらいの竜巻や、蟻の尖った歯に、黒犬の鋭い爪などが襲う。
抗うことなど出来ない状況のなかで、俺もダメージを食らった。
白山羊が前方に突き出した杖から直径1Mの赤い魔法陣が展開され、そこから同じ大きさの火の玉が飛び出したのだ。
俺は上半身を仰け反らせてかわそうとしたが、火の玉の半分ほどが当たり、一瞬ボウッと燃えた。
直撃こそ免れたが、LV.18による魔法は、レベルがたった2の俺にとってはかなりの痛手だ。
ただでさえ20ポイントしかないHPが、5にまで減っている。
(次の攻撃で、死んでしまう。)と思った俺は、アイテムBOXから〝回復ポーション〟を取り出し、一気に飲み干した。
これも、国王によって支給されていた物で、他に、〝毒消しポーション〟や、麻痺や混乱を解消する〝ステータス異常回復ポーション〟がある。
しかし、死者を生き返らせるアイテムは存在していない。
この世界も、まさに、死んだら終わり│《・・・・・・・》なのだ。
ヒットポイントを回復させた俺は、目の前の光景に絶句した。
【統べる者】に支配された人々が次々と魔物たちに惨殺されているではないか!
呆然と立ち尽くしてしまった俺に、一匹の蟻が刃のような腕を横に薙ぎ払ってきた。
ハッとした俺はバックステップで回避しようとしたが、腹部を切られたようで、痛みが走る。
更にはバランスを崩してしまい、高さ5Mくらいの崖から転がり落ちた。
斬られた腹と、口から、血が溢れ出る。
「ぐうぅッ」と呻く俺の目がかすんでいく。
自身のステータスを確認してみると、ヒットポイントが残り2Ptになっている。
ポーションは各種1本ずつしか渡されていなかったので、俺は絶望した。
ぼんやりとする意識のなかで、
(なんでこんな目に…。)
と、歯ぎしりする。
(それもこれも勇者の所為だ!)
(他にも、この世界に召喚した奴らや、無謀な事をさせた国の要人どもにも責任がある!)
(出来る事なら復讐したい!!)
と、どこにもブツケようのない怒りを噛み締めていたら、どこからともなく、
『憎いか?』
『ならば我が力を譲ってやろう。』
という声が聞こえてきた。
(幻聴か?)
と思った次の瞬間、俺の全身が黒い光に包まれ、どこか別の場所に転移した。
そこは白壁で作られたドーム型の巨大な部屋だった。
『力を欲するか?人の子よ。』
と、俺の頭の向こう側から何者かが語り掛けてくる。
痛みを堪えながら体をゆっくりと返し、仰向けになった俺の目に不思議なモノが映った。
全長は10Mほどあろうか?
ソイツは、黒い影のようであり、黒い霧のようでもあり、或いは黒い炎のようでもある。
2~4Mといったところであろう横幅は、呼吸するかのように、縮小したり増幅している。
見上げると、白く鋭い目のようなものが二つ付属していた。
『我が足元の魔石に触れよ、さすれば汝は今よりも強くなるであろう。』
ソイツに足は無いのだが…、床に直径1Mぐらいの歪な球体があり、そこからこの影みたいなヤツが出現していた。
ちなみに、魔石は黒と紫が入り混じったように輝いている。
(これは、大丈夫なのか?)
と、いささか怖気づく。
『躊躇っている暇はなかろう?』
『このままでは息絶えるだけであろうに…。』
と言われ、確かにその通りだと意を決した俺は、伸ばした右手で魔石にタッチした―。