第29話 魔銃
その日は、朝から、幾つかの出来事があって、若干ながらドタバタした。
まずは、賢者たち[トーキー王国科学開発班]による“魔銃”の試作品を撃ってみる運びとなったので、城の庭園に出たところ、国の要人らにモンスター達が集まっており、勇者とその補佐役である生徒会書記の2人も見学に訪れていた。
ちなみに、生徒会の副会長は、交際していた勇者を俺に寝取られたうえに、フラレてしまったショックで、転職したらしい。
[魔銃]とは、〝魔石を用いた銃だから〟とも、〝魔物を撃つ銃だから〟とも、の話しだ。
およそ94㎝の長さがあるライフルは全体的に黄色く、とこどころ白の装飾が施されている。
賢者曰く、「雷の魔石で作成しました」との事だ。
射程距離は80M前後らしいが、取り敢えず、50M先に立てられた丸太を狙う。
丸太は長さ2Mで直径は50㎝といったところだ。
セイフティーレバー(安全器)を解除してみたら、銃口に直径10㎝の黄色い魔法陣が出現した。
目測で標的を見定めた俺がトリガーを引くと、魔法陣と同じ大きさの雷が発射されて、
ズバアアァァンッ!!
と、丸太に直撃した。
軽くではあるが、全体的に〝ボワッ〟と燃えて倒れた丸太を、[水]や[氷]のスキル持ちたちが消火する。
王と各将軍が、
「おおッ! これはまた…。」
「素晴らしいですなぁ!」
「大量生産できれば、軍事力が大幅に上がるでしょうな。」
「他の種類もあるのですか?」
と堰を切ったかのように話し出す。
それを、
「まぁ待て、順に聞いていこう。」
と、落ち着かせて、賢者に、
「良くぞ完成させた。」
と述べたところ、
「恐れ入ります。ただ…、1発放つごとに、30秒の充電時間が必要となります。」
との返答があり、
「ん?」
と、首を傾げたら、高校の[科学研究部]に所属していた男子が、
「リキャストタイムとも、クールタイムとも言われている現象です。」
と発言する。
更に、賢者が、
「生活用の光や水に火などの魔石は、事故に繋がらぬよう予め全体の2~3割ほど力を制御してありますが、このように武器で使うとなると最大出力にせぬといけませんので…。」
と、補足した。
「つまり、100%発散すると、再び溜まるのに30秒かかるので、連射は不可と言うことか?」
「申し訳ございません。」
「いや…、本数を増やせばいいだけだから、気にするな。」
そう、[織田信長]の“長篠の戦い”のように。
「で? 現時点で、どれだけ生産できそうだ?」
「今、雷以外の魔銃にも取り掛かっておりますが、なにせ職人たちがまだまだ慣れておりませんので、1ヶ月で各種1本ずつが限界かと…。」
「ですが、半年も経てば、週に1本ずつは可能になるでしょう。」
「うむ、上出来だ。…勇者よ。」
「はッ!」
「“狙撃手”は何人ぐらい残ってる?」
「確か…、50人程でございます。」
「ならば、賢者よ。まずは異世界召喚者の狙撃手たちに魔銃を配給してくれ。王国の兵士たちは後々にしよう。」
「かしこまりました。」
とのやり取りを終えて、
「例えば、剣や槍とかにトリガーを付ければ、同じように発動させられるか?」
と賢者に訊ねてみたら、
「いいえ、無理でしょう。」
「ライフルみたいな構造でなければ武器そのものが持ち堪えられないと、予測されますので。」
との説明を受けた俺は、
「そうか…。」
「もし応用できれば、アーティファクトみたいになるかと思ったんだがな…。」
と、いささか残念がった。
「まぁ、良い。」
「今後も尽力してくれ、王国の科学開発班よ。」
と声を掛け、賢者たちが、
「一命に替えましても。」
と、頭を下げた。
そもそもアーティファクトとは何なのか?
誰が造ったのか?
そこら辺を賢者に質問しようかとした頃合いで、城から誰かが小走りに駆けてきた。
王女のメイドだというその者が俺の前で立ち止まって、
「主様に、〝例の物が届きましたので、1階の広間へお越しください〟との、王女様からの言伝でございます。」
と、会釈した―。