第25話 詰み
いつ刺された?
俺が、通り過ぎる炎を見送っていた時に、間合いに入り込んだのか?
こちらより【素早さ】が上とは言え、ここまでとは…。
〝ズズズズ、ズ――ッ〟と俺の腹から剣が引き抜かれる。
俺は、
「ぶぁはッ!」
と血反吐を吐きながら崩れ落ち、地面に両膝を着いた。
そんな俺を見下ろす[ゴブリン女王]が剣を振り上げる。
広場の東西南北から、
「ご主君――ッ!!」
「主様ぁ――ッ!!」
という沢山の声と同時に、数々の魔法と矢がゴブリンロード目掛けて放たれた。
それに気づいたゴブリンの王が、野球のバットスイングのように、
「ふんッ!!」
と、180度半転しながら剣を振るう。
それに伴い、幅1M長さ10Mの“炎の筋”が出現し、全ての攻撃を燃やし尽くした。
俺は周りが作ってくれた僅かな時間を活用し、アイテムBOXから〝ハイポーション〟を取り出して、急ぎ飲み干す。
剣による一撃と、追加の炎で、俺のHPは半減していたが、〝ハイポーション〟によって500ポイントが回復した。
これで、HPが1600となる。
この世界の“通常ポーション”と“小ヒール”は100ポイントを、“ハイポーション”と“中ヒール”は500ポイントを回復させ、“DXポーション”と“大ヒール”は全快させてくれる。
そういう意味では、“ハイポーション”で全回復することは出来ないのだが、俺が刺された部分は塞がり、焦げた箇所は元に戻っていた。
だが、衣服の一部には前後共に穴が開いたままになっている。
両の掌を前方に突き出した俺は、直径10Mの黄色い魔法陣を展開して、それと同じ大きさの雷を発射した。
ゴブリンロードは自身の右斜め上から左斜め下へと剣を振るい、炎を発動させる。
ぶつかった雷と炎が眩い光を放ちつつ、
ズッボオオォォンッ!!!!
と炸裂した。
ゴブリン女王が、〝ググググッ〟と重心を下げて、獲物を狙う目で俺を見る。
(また、突く気だ!)
と、察した俺は、背中から翼を出現させ、宙に浮く。
「ほぉう、飛べるのか…。」
とロードが少し驚く。
そこへ、俺が服従させている連中が一斉に襲い掛かる。
魔法は粉砕される可能性が高いので、剣を抜いた俺もゴブリンの王に斬りかかった。
――どれぐらい経っただろうか?
3時間か、4時間か…。
いや、それは体感であって、実際は30分程だろう。
女王は、俺たちの様々な攻撃を、時に受け止め、時に往す。
あまりダメージを与えることが出来ず、逆に向こうからの反撃によって死滅する者もいた。
俺たちは、HP・MPのポーションを使い果たし、マジックポイントも底をつき、ジリ貧になる。
多くの者が地面に横たわって呻いているなか、俺は右から左へと剣を振るう。
逆方向から薙ぎ払ってきたゴブリンロードの剣と接触した刹那、
パキィィィィ――――ンッ!!
と俺の剣が真っ二つになった。
(マジか!?)
と、顔面蒼白になる俺の腹部右下から左肩に掛けて、二度目の激痛が走り、その部分が燃える。
ある程度ヒットポイントを削られていたので、これが致命傷となった。
顔面から倒れ、左頬を地面に打った俺のHPは残り2となっている。
近づいてきたゴブリン女王が、
「言い残すことがあれば聞いてやらぬでもないぞ。」
と声を掛けた。
(こんのッ、メスゴブめ~ッ。)
と、憤りながら、薄れゆく意識のなかで、俺は逆転の手立てを考える。
(このメスを黙らせる一手はないか?)
(この…、メス…、…、…、ん? メス??)
(そうだよな、こいつ俺にしてみれば異性だよなぁ…。)
(ひょっとしたら、まだ使ったことのないアレが有効…、かも?)
と思考が完全にはまとまらないうちに、
「遺言が無ければ、命を絶たせてもらうぞ。」
と、両手で逆さに持った剣を頭上に振りかざす。
(仕方ない。イチかバチかだ!)
と俺は痛みに震えながら右の掌を挙げ、
「チャーム。」
と、唱えた―。