第21話 襲来
まずは、800ポイントのMPを使って、中央以外の、東西南北の領土を“服従”させる。
その後、『各領土に居るLV.50以上の者たちは集結するように』との事や、『それぞれが、中央との領境に揃い踏みするまでの間、野営しながら特訓するように』と、【伝言】で命令しておいた。
俺は、【飛行】で北上しつつ、南方領内の街を2つ3つ見学していく。
どこも人間の国と変わらないぐらい衣食住の水準が高い。
(モンスター達にこれほどの物が作れるのか?)
と不思議に思ったが、ある街の長が、
「魔人やダークエルフあたりは、それなりに知能も高く、割と器用ですし、ドワーフのなかには金銀財宝といった報酬さえ支払えば快く働いてくれる者たちもおりますので、一定の水準を保つことは可能でございます。」
と教えてくれたので、得心がいった。
なにはともあれ、目的地に到着した俺は、先に来ていた者たちとの特訓&野営生活を送りながら、後続を待つ。
日々、朝から晩まで訓練し、夜のレッスンも怠らない。
何体かのモンスター達とエッチしてみたが、なかなかに良かった…。
他にも、初めて自分以外の“魔人”に会ったのだが、肌は青く、腰あたりまでの長さがある髪と瞳は紫色だった。
てっきり、肌や髪に瞳の色は自分と同じだと思い込んでいたが、彼女の方がオーソドックスで、俺は[亜種]との事だった。
ま、旧魔王たるキマイラと融合したのだから当然か。
話しを元に戻そう。
南方領主は【武闘家】の“ゴブリーナ”で、黄緑色の肌をしている全身が程よく引き締まっており、ピンク色の髪はショートである。
南方では彼女が最も強く、LV.98だ。
魔族はレベルが高くなればなるほど性欲も増すのか、このゴブリーナは俺に負けず劣らず絶倫だったので、いつも、終わったあとは互いに疲労困憊になっていた。
ゴブリンの国に侵入してから1ヶ月、ようやくモンスター達が集結した。
少しでも勝てる可能性を高める為に実施した特訓のお陰で、LV.50台と60台の魔物たちは平均で5つレベルが上がった。
70台は4ほど、80台は3くらいで、90以上は2つレベルアップしている。
俺はLV.110となり、それに伴ってHPが2200にMPが1100になった。
これは、南方領主である[ゴブリーナ]に聞いた話だが、
〝人族に比べて魔族の方が、レベルが上がりやすい。〟
との事だった。
これには、
(だから人間よりもモンスターの方が、強い連中が多いのか。)
と、納得させられた。
ちなみに、人間でレベルアップするのが早いのは【勇者】ぐらいなもんらしい。
元々モブキャラだった俺は旧魔王と同化してからチート級になったが、確かに【勇者】は最初からチートな存在だったなと、一人で回想する。
「ただ、LV.90以上にもなると、どの種族も上がりづらくなるようです。」
とも補足してくれた。
ま、いずれにせよ、これで、[ゴブリン四将軍]と[ゴブリンロード]を倒せるだろうと、踏んだ。
俺の作戦はこうだった。
東・西・南・北から、レベルが50を超えている者たちで、一斉に王城を目指す。
その道中に、中央を服従させれば、敵はロードとジェネラルたち5体のみとなる。
ソイツラが幾ら俺より強かろうとも、こっちは数的に有利なのだから、押し切ってしまえば勝てる!
と、考えていた。
(我ながら良い作戦だ。)
と得意げになっていたが…、俺は所詮、[普通科]程度の平凡な頭脳しか持ち合わせていなかったのだ。
アッチの方も含めて、力が増大された事により、自惚れてしまい、油断と隙が生じまくっていたのだが、その時は、まだ、気が付いていなかった…。
王城への進軍を開始すべく、隊列を整えさせていたところ、背後(北側)から何かが来る気配を感じ取り、振り向く。
すると、
5Mの長さがある銛のような形の、5本の[風の刃]が、俺を目掛けて飛んできていた。
全体的には白色だが、周囲は緑色になっている。
慌てて、直径5Mの白色と水色が入り混じった魔法陣を展開させた俺は、まさに[水の刃]を5本発射した。
こちらは、周囲が水色になっており、内側は白色だ。
[風の刃]と[水の刃]が、俺の50㎝手前で、
バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!
と、ぶつかり合い、互いを粉砕した。
10Mくらい離れた場所から、
「ふむ、ちっと甘かったかのぉ…。」
と自身の顎を手で擦っている何者かを目視した俺は、
「なんだ? こいつ。」
と、訝しがる。
すぐ近くにいた南方領主が、
「あれは…、ゴブリンシャーマン!」
と目を丸くした。
身長は150㎝前後で、ビショップのような法衣と杖を装備し、頭には牛と思しき獣の頭蓋骨を被っている。
また、首と、左右の手首には、動物かモンスターかの、何本もの牙で作られたアクセサリーを付けていた。
「シャーマン?」
と、ゴブリーナに訊ねてみたところ、
「はい。四将軍が一体です。」
と答えたので、俺は、
「ジェネラルか!?」
と、驚いてしまった。
招かざる客の思いがけない来訪によって、全員に緊張が走る。
気を取り直した俺が、試しに、
「四将軍で一番厄介なのは?」
と南方領主に質問してみたら、
「不運にも、眼前の者でございます。」
と、返ってきた―。