第195話 移ろう戦局・前編
【咆哮】から解放された面子が、まだ震えている連中に[異常回復ポーション]を飲ませていく。
再び宙に浮いた俺が、
「よく来てくれたな。」
[水の王]に声を掛けたところ、
「うむ。」
「海底からの移動だった故、開戦前に到着するのは難しかったが……、間に合ったようで何よりじゃ。」
〝ニッ〟と口元を緩めたのである。
地上から、勇者が、
「覇王様!」
「敵に新たな動きがあります!!」
と、教えてくれた。
「ん?」
振り向いてみたら、魔王軍の最後尾から一千万ほどが前線に進んできていたのである。
それは…、1.5M級の猿/2M級の狐/2.5M級のウェンディゴ/3M級の熊/3.5M級のマンモス/10M級のオーガ/12M級のギガンテスが、石化している集団だった。
まるで、某RPGの[う○くせき○う]のように。
違うのは、それぞれに、騎士・戦士・武闘家・アサシンなどの防具を装備している点だ。
「なんだ、あれ??」
俺が目を疑っていたところ、
「覇王?」
リヴァイアサンが聞いてきた。
「ん??」
「ああ、実は、俺のジョブが“東の覇王”になっていてな。」
説明したら、
「ほぉう。」
「“覇王”とは……。」
「なかなか良いではないか!」
「この調子であれば、やがて、“魔王”になるやもしれんな。」
「ま、〝現在その座に就いている者を倒せれば〟じゃろうがのッ!!」
何故だか愉快そうに返してきたのである。
…………。
正直、自信はない。
なにせ、[現魔王]は、未だ姿を見せていないので、どれぐらい強いのかすら分かっていないのだから…。
「覇王様ぁーッ!」
「“大地の槍”を扱っても?!」
質問してきたクレリックランサーに、
「ああ、構わん!」
俺は許可した。
あの槍の能力には1日10回の制限があるので、使いどころがくるまで控えるよう、予め指示しておいたのだ。
今が〝その時〟である。
俺が、
「つーか、お前ら、“念話”で喋ればいいだろ!?」
ツッコミを入れたところ、
『すみません。』
『オーガロードの“咆哮”によるショックが抜けきれておらず、うっかりしておりました。』
生徒会長が伝えてきた。
『ふむ。』
『あれは、これまでくらったなかで最も強力だったから、仕方ねぇか。』
『しかし!!』
『ここからは気を取り直して、皆、力の限りを尽くせ!』
俺の命令を受け、〝うおおおお――ッ!!!!〟と新連合軍が攻撃を始める。
[海の王]の登場に、おののいていた奴らが我に返り、対応しだした。
この流れで、[鬼の王]が〝すぅ―ッ〟と息を吸い込んだ。
おそらくは、改めて吼えるつもりなのだろう。
だが、それよりも早く、
「バーニング・ロック!!」
バードロードが【灼熱の岩】を、オーガの群れに放った。
幾千もの家来衆が倒れゆくなか、鬼の王が、柄の長さ3M×剣身7Mで、刃の元幅50㎝かつ先幅2㎝くらいの、“グレートソード”を、右斜め下から左上と振るい、
ドッゴォオ―ンッ!!!!
岩を砕いたのである。
とは言え、衝撃に耐えきれず、よろめいて、左膝を地に着いた。
「先程の、“毛むくじゃらの象”よりは、骨がありそうだな。」
ガルーダが笑みを浮かべる。
このような状況で、
『問題が発生しておりますわ、覇王様!』
『あの石たちが頑丈すぎて、攻撃が殆ど効いておりません!!』
聖女が報告してきた。
ソイツラに視線を送ってみたら、武器や魔法にスキルでは傷を付けるのが精一杯で、破壊にまでは至ってなかった。
[アーティファクト]であれば、割と粉砕できているみたいだ。
『あれは、一体なんだ?』
俺が首を傾げたところ、
『儂の考えが正しければ…、生物を石に変えるという、ある“アーティファクト”を用いた可能性が高い。』
『じゃが……、石像になっても活動できるなどといった伝承は無かった筈じゃ。』
『となると、儂が屍どもを操っていた“マジックアイテム”に似た代物による仕業じゃろうな。』
『その魔道具を作ったのは、十中八九、“義眼の魔人”であろう。』
[アンデッドソーサラー]が見解を示したのである―。