第189話 ロード達の攻防戦・其之壱
[猿の王]が、
「挑発!」
と、スキルを使うも、[スライム女王]は微動だにしない。
「やはり…、〝スライムは感情を持ち合わせていないから、挑発が効かない〟というのは本当だったか。」
どうやら、モンキーロードは試してみたかっただけのようだ。
「ならば……。」
猿の王が、柄の長さ15㎝×刃渡り60㎝のソードを、右手で抜いていく。
モンキーロードは【アサシン】であるものの、背丈が3Mなので、通常の“ダガー”では小さすぎるのだろう。
なにはともあれ、
「行くぞ!」
猿の王が走り出す。
スライムクイーンに近づくなり、モンキーロードが剣を左から右へと払った。
上体を反らして避けようとしたスライム女王ではあったが、躱しきれず、胸元を斬られてしまう。
スライムロードが転びそうになりながらも、相手の顔めがけて、右の蹴りを放つ。
しかし、実態がなかった。
背後に気配を察したスライムクイーンが、左の裏拳を、お見舞いする。
だが、これもまた、意味をなさなかった。
スライムロードの右側に現れた猿の王が、
「どちらも“残影”だ。」
ソードを右から左へと振るう。
スライム女王は脇腹を狙われたものの、〝しゅるんッ!!〟と球体になって逃れた。
ある程度の距離を取ったところで、スライムクイーンが“人型”に戻る。
まるで、[リ○ル=テン○スト]のように。
ちなみに、胸の傷口は塞がっているみたいだ。
モンキーロードが、
「なかなか、やるな。」
「とは言え…、これには対応しきれんだろう。」
不敵な笑みを浮かべた。
警戒したスライム女王が、武闘家のように構える。
暫しの沈黙が流れ……、
「疾風の一打!!」
モンキーロードが〝ドンッ!〟と地を蹴った。
それは、LV.100になった【アサシン】だけが収得できる“スキル”だ。
1日4回の制限があり、1回につき100のMPを消費する、この能力は、“素早さを5倍にしての打撃”というものである。
いずれにしろ、かなりのスピードに反応できなかったスライムロードが、左胸を、
ズンッ!
と刺され、
バァンッ!!
無数に弾けた。
地面に落ちた幾つもの残骸を見て勝ち誇った猿の王が、周囲を確認し、
「他の連中は未だ決着がついていないみたいだな。」
と、呟いて、
「ならば、先んじて、あの魔人を倒すとしよう。」
上空で待機している[東の覇王]に視線を移す。
「そこの魔人!」
「お前が総大将であろう!!」
「降りてこい!」
「すぐにでも殺してやるからッ!!」
威勢よく吼えるモンキーロードに気付いた俺は、
「あん?!」
「いいのか? 余所見してて。」
「まだ終わってないみてぇだが。」
わざわざ警告してやった。
「なにを」
俺のことを睨み付けようとした猿の王が、足元の違和感に〝ハッ!〟とする。
バラバラになっていたスライムクイーンが一ヵ所に集まって、再び球体となり、
ブワッ!!
大風呂敷のように広がりつつ、モンキーロードを包んでいった―。