第18話 気が付けば
フッと目が覚めて、上体を起こし、
「ん~~ッ。」
と伸びをした頃合いで、外から、
「ご主君、お目覚めでしょうか?」
と、声を掛けてくる男がいた。
あの老騎士とは別の者だ。
「どうした? 何かあったか?」
と聞いてみたところ、
「あ、いえ、そろそろ夕食時ですので、様子を窺った次第にございます。」
と、言われたので、
「え?? もうそんな時間か?」
と多少ビックリしてしまった。
テントから出てみると、空の上部はまだ青かったが、下の方は黄色とピンク色が入り混じっており、ノスタルジックを演出している。
いささか呆気に取られていると、先ほどの男が、
「ご主君、どうぞ。」
と、野外用のチェアーを提供してくれた。
50代半ばのこの者は、第三陣の総大将を務める[西方領主]であり、LV.34の【武闘家】だ。
身長は170㎝ぐらいで、白髪交じりの髪をスポーツ刈りにしている。
鼻の下の髭も所どころ白く、眼は細い。
普段は、カンフー使いのような道着に、胸当て・肩当て・脛当て・小手を装備していて、小手には鉄製の鋭い武器が付属している。
所謂“鉄の爪”というやつだ。
だが、今は、臨戦状態ではないので、割とラフな格好をしている。
差し出された椅子に腰掛けると、
「あと10分…、15分程で、支度が整うかと思われますので、それまでの間ごゆるりとお過ごし下さいませ。」
と頭を下げ、その場を後にした。
(さて、MPは完全に回復しているだろうか?)
と、ステータスを開いてみたら…、
レベルが上がっていた。
3つも。
(いや、いつレベルアップしたんだ?)
と首を傾げる。
おそらくは、今朝がた倒した第二陣の50万と、昨日の第一陣100万によるものだろう。
それでも、
(今日の朝、要塞の屋敷から飛び立つ前にチェックした時は気付かなかったのだが…。)
と、記憶を辿ったところ、昨日あの指揮官たる女戦士と〝夜の相撲〟を取り組みすぎて疲れが残っていた事や、二日酔いだったので、脳がイマイチ働かず、完全に見落としてしまったのではないかとの結論に至った。
俺は、これが、有名なRPGたちのように、
タタタタタッタッタッタァ~♪
だの、
タタタータータータータッタタ~♪
だのと、
レベルが上がる際に音楽が流れるとか…、
どこからともなく、
「レベルがアップしました。」
と音声ナビが聞こえてくれれば便利なんだが…。
そう思った。
それはさて置き、俺の計算によれば、50万人を屠ってレベルが1つ上がったことになる。
これは、あいつらが弱すぎて大した経験値を稼げなかったのか?それとも、流石にLV.100以上ともなると次のレベルまでかなりの経験値が必要となるのか?或いは、その両方かと、またしても悩んだ。
(でも、ま、考えても分からないし。)
と一旦思考を止め…、グッスリ眠って、スッキリした頭で、ハッキリと確認していく。
もともと、LV.105だったのがLV.108に、2100だったHPが2160に、1050だったMPが1080になっていた。
それ以外に関しては、今のところ変化がない。
まだ解放されていないスキルや、【進化】がどの様に成されるのかと、想像を膨らませていたら、
「おぉ、お目覚めになられたようですな、ご主君。」
と話し掛けてきた者がいた。
あの老騎士だ。
だが、既に甲冑を脱ぎ、紺色の上品な服装になっていた。
「なんか…、貴族みたいだな。」
と、言ったところ、
「ま、一応、サータ王国における上流貴族ですので。」
との事だった。
「そうなのか?」
と聞き返したら、
「ええ、各領主は皆そうでございます。」
と、答えた。
「でも、西方領主は、簡素な恰好をしているが?」
と疑問を口にしてみると、
「まぁ、あの者は堅苦しいのを嫌う性分ですので…。」
と、苦い笑いした。
俺はトーキー王国の領主たちに会ったことがないからよくは知らないけれど、多分、そいつらも上流貴族なんだろうと、勝手に納得する。
「…ところで、お前は、うちの大将軍よりもレベルが高いが、こっちの上将軍はもっと強いのか?」
と訊ねてみたところ、
「いいえ、こちらの西方領主より少し下でしょう。」
との事だった。
「ん? じゃあ何でお前らは将軍職に就いてないんだ?」
と、投げかけてみたら、
「実は、私は10年ほど前まで、上将軍でした。」
「しかし、年齢を理由に隠居しようとしたところ、先王に引き止められ、東方領主に納まった次第でして…。」
「彼の場合は、やはり先王の時代に〝左将軍へ〟との打診があったものの、〝地位が高くなればなるほど縛りが増えて窮屈になる〟との理由で断り、西方領主の立場から出世しようとは致しません。」
「ちなみに、現在の上将軍は、もともと右将軍でした。」
と説明してくれた。
「そっかぁ…、じゃあ無理かぁ…。」
と、独り言のように呟いた俺に、
「何がでございましょうか?」
と東方領主が窺ってきたので、
「いや、お前にこの国の新しい王になって貰おうかと考えていたのだが…。」
と、述べたところ、
「ご冗談を…。」
と、驚いた表情になる。
そこに、あちらこちらから、フライパンや鍋を、お玉などで、
カンッカンッカンッカーンッ!
と叩く、食事の合図が鳴り響いた―。