第179話 過去と現在と・急
「お聞きしたいことが二つあります。」
魔人姉が訊ねる。
「鳥の王である“ガルーダ”に足枷を装着させた理由は??」
「それと…、大叔父、あ、いえ、“義眼の魔人”は瞬間転移したとか? アサシンだというのに。」
それらの疑問に対して、
「“呪いの足枷”か……。」
「あれは、未だ完成しておらなんだったのに、あ奴に〝どうしても〟とせがまれて、譲ってやったのじゃが、“鳥の王”に使っておったとは…。」
「ふぅ~む。」
「……、おそらくじゃが、魔王に仕えるための手土産にしたのかもしれんのぉ。」
「現魔王が“東の大陸”に乗り込んだ際、バードロードが敵に回ったら手強いじゃろうからな。」
「義眼の魔人が“瞬間転移”できたのは、儂の元で研究していたマジックアイテムによるものじゃよ。」
「そういえば、一年ほど前に、あの魔道具が完成した時から、しばしば城を留守にするようになっておったのぉ…。」
「今にしてみれば、それぐらいの頃から魔王と繋がりを持つようになったのやもしれんな。」
「“暗黒騎士”の件は、もしかしたら、“狼の国”などを弱体化させるべく、儂らアンデッドと激突させたかったのじゃなかろうか??」
「魔王が“北の大陸”を制圧しやすくなるように……。」
との見解をリッチが示した。
[北の大陸]では、ウルフ国以外に、二つの“人間の国”が、魔王軍と徹底抗戦の構えを見せているのだそうだ。
ここに[馬の国]が新たに加わった事になる。
アンデッドたちは[屍の国]から外に出ることは殆どないので、魔王側は放置していたようだ。
いずれにしろ、この大陸を魔王が支配するのは時間の問題となっていた。
魔王は、 [北の大陸]の完全制覇を終えたら、[東の大陸]に進軍する可能性が高いらしい。
〝新たな勇者が召喚された〟という情報を得ているので。
[東の大陸]で最もレベルが高い“ガルーダ”が勇者に味方して、魔王に立ちはだかった場合、厄介そうなので、呪いをかけたのであろうとの話しだった。
「あの足枷は、もし、魔王が、この国を押さえにきたならば、隙をついて用いようと考えておったのに、出し抜かれてしまうとは…。」
アンデッドソーサラーが溜息を吐く。
「ん??」
「“屍の国”は、そもそも、魔王配下じゃないのか?」
俺が首を傾げたところ、
「いや、ここは、“中立国”みたいなもんじゃったからのぉ。」
「魔王には与しておらんよ。」
と、魔霊が返してきたのである。
「それにしても……、大叔父が、魔王の側に居るとなると、簡単には捕縛できなさそうですね。」
深刻そうな顔つきになったのは、魔人の妹だ。
「確かにな。」
「ここから先は、“狼の国”と“馬の国”には関係のない事だから、撤退してもらうとして…、残った者たちで現魔王に勝てるかどうか……。」
頭が痛くなっていく俺に、
「何を言うておる!」
「我らも共に戦うぞ!!」
「勿論、私どもも、です。」
[ワーウルフ]と[半ペガサス]のロード達が、有難い申し出をしてくれたのである。
「すまねぇ、恩に着るぜ。」
俺が感謝したら、
「なに、気にするな!」
[狼の王]が笑みを浮かべた。
「ですが…、どこまで通用するかは、分かりません。」
「全滅も覚悟しておいたがいいでしょう。」
[馬の女王]の冷静な意見に、重たい空気が流れる。
そんな俺たちの所に、何かしらが接近して来ていたのだった―。