第178話 過去と現在と・破
「千年前に、この世界に召喚した連中は、日本人か?」
俺が聞いてみたところ、
「ニッポン??」
「いや、ヨーロッパとかいう大陸の、ナンチャラという国の者たちであった。」
「遠い昔のことじゃから、詳しくは忘れてしもうたが……。」
と、魔霊が返した。
「あの…、あなたは、その時代に、今のような姿になったのですか?」
生徒会長の質問に、
「うむ。」
「完璧なキマイラを創造するためのアーティファクトはないものかと、それを探し求め、弟子たちの中でも戦闘に慣れた四人を連れて、“大帝都”を離れた翌日に、あの事件が起きてのぉ……。」
「都を瞬く間に“黒き炎の海”と化したブラックドラゴンのキマイラは、周辺地域も蹂躙していきおった。」
「あれは、まさに、“厄災”であったわ。」
「いや…、判断を誤った儂にも責任はある。」
「あのキマイラが、あそこまで強くなるとは予測できんかったのじゃから……。」
「いずれにせよ、事態を重く見た儂は、適当な洞窟に避難しつつ、弟子らと共に〝不老不死になれる〟と言われておった魔法を発動したのじゃ。」
「なにせ、勇者たちも全滅したものとばかり思い込んでおったからのぉ。」
「不死身になれば、時間が掛かったとしても、儂らで魔王を倒せるかもしれんし…、不可能だった場合は、絶大な攻撃魔法を編み出す研究に労力を費やそうと、考えたのじゃよ。」
「ま、結局は“リッチ”になってしもうたがな……。」
「儂が、いかに“天才”と呼ばれていたとはゆえ、禁忌ばかりは制御しきれんかったわい。」
アンデッドソーサラーが語ったのである。
「4人のお弟子さんは??」
二年生書記が窺ったら、
「う…む。」
「跡形もなく消滅してしもうたよ。」
「戦いを挑んだ結果、旧魔王による“ビーム式のドラゴンブレス”によって……。」
寂しそうにしたのだった。
骸骨なので表情までは読み取れなかったが…。
「どうにか逃れた儂は、スカルドラゴンによって“屍の国”となってしまったこの地に辿り着いた。」
「それ以来、魔法や魔道具の実験に没頭してきたというわけじゃ。」
リッチが締め括ったのである。
「ところで……、“義眼の魔人”は今どこに?」
「城にでも籠っているのか??」
問い掛けたのは、魔人姉妹の父親だ。
[魔人の国]において“右将軍”の彼は【騎士】である。
「ん?」
「ああ…、あの者なら、もう既に、この国にはおらんぞ。」
「“現代の魔王”の元に行っておる。」
この発言に、
「魔王だと!?」
俺が目を丸くして、全員がザワつく。
「あ奴は、ここ10年、儂の所でマジックアイテムに関して学び、“暗黒騎士”の誕生を見届けてから、去っていきおったわ。」
リッチが補足した。
「“常闇の剣”と“黄泉の甲冑”を盗んだのは何故だ??」
人狼たる王が訊ねたところ、
「“義眼の魔人”に提案されて、試してみたくなったんじゃよ、ダークナイトの製造が成功するか否かを。」
「“あくなき探求心”というやつじゃな、単純に。」
「まぁ、魔術に携わる者の性であろうのぉ……。」
と、述べたのである―。