第169話 常闇の剣
宙に浮いている“黒い球体”によって押し潰されていく俺が、
『ぐッ!!』
『なんだ!? これは??』
苦しみながら【念話】で述べたところ、
『重力系の、魔法もしくはスキルでしょう。』
魔人のロードが答え、
『伝承にある“常闇の剣”の仕業に違いない。』
狼の王が告げたのである。
後続部隊の“遠距離型”が、様々な魔法を、直径100Mの球体に当てまくっているみたいだ。
しかし、効果がないのだろう、俺らは“黒い球体”が発する重力から逃れられずにいる。
人狼のロードが、
『そっちではなく、発動している者を狙え!』
『あの“黒甲冑”が怪しかろう!』
との見解を示した。
トーキーの面子は最前に居たので、全員が、球体の重力操作によって身動きが取れずにいる。
なので、味方の最後尾にいる“狼軍のソーサラー系”が幾つもの魔法を放った。
これらが当たった[暗黒騎士]がバランスを崩す。
お陰で、黒い球体が〝フッ!〟と消えて、圧から解放された俺達が立ち上がっていく。
その流れで、聖女と勇者にクレリックらが【ヒール】を発動して、皆を回復する。
ほぼ同時に、“ダークナイト”も体勢を整え直した。
「やってくれたじゃねぇかッ!」
背からドラゴンの翼を出した俺は、[大地の槍]を右手に、低空飛行で、暗黒騎士へと向かっていく。
『待てッ!!』
『言い伝え通りならば、あの剣は、厄介ぞ!!』
[ワーウルフの王]による制止を気にも留めず相手との距離を詰めて、槍を右から左へと払ったところ、
ガキィインッ!!
中剣の刃で受け止められてしまったのである。
右足で、腹部を〝ドンッ!〟と蹴られた俺が、軽くヨロめく。
すかさず、敵が剣を頭上から振り下ろしてきた。
俺は、これを防ぐために、真横にした[大地の槍]を突き上げる。
しかし。
“黒い霧の刃”が、槍の柄をすり抜けて、俺の胸元を、
ズブシャッ!!
と、斬ったのだ。
「なッ?!」
事態を理解できない俺に、スケルトンどもが殺到してくる。
俺は、急いで、上空へと避難した。
地面から15Mほどの位置で、自分の鎧に視線を送る。
左の鎖骨あたりから、右の脇腹あたりに掛けて、切れ目が生じており、ここから流血しているのが確認できた。
(どういう事だ??)
俺が首を傾げたら、
『トーキーの魔人殿、いや…、全軍に伝えおく。』
『“常闇”は、剣の部分が黒い霧のようになっており、扱う者の意志によって強度を高めることが可能なのだそうだ。』
『一方で、その逆に、“ただの霧”と化すことも出来るらしい。』
『遠くて見えなかった者たちには意味不明であったろうが、先程の球体も、“常闇の剣”によるものだ。』
[狼の王]が、そう告げたのである―。