第166話 屍の国・其之肆
更に二日が過ぎた。
俺たちは、[屍の国]の南方領土に在るであろう“中心都市”へと向かっている。
精気を吸引されていた面子の3割は快調になっていたが、残る1割は未だ具合が悪そうだ。
現在はAM10:30頃である。
俺の後方から、
「んッ!?」
「ご主君…、何やら、こちらに突進してきています。」
と、トロールが声を掛けてきた。
確かに、かなり前方の大地に砂埃が見受けられる。
そいつらが、俺らの約1㎞先で止まった。
こっちは、ゆっくりとした足取りで進んでいく。
警戒を強めつつ…。
割と近づいてみたところ、一千万のアンデッド軍であることが確認できた。
連中の最後尾から、一体の魔物が〝バッサ! バッサ!〟と、宙に浮く。
背中にコウモリの翼が生えているライオンで、サソリの尾を有しており、全体的に黒色と紫色が入り混じった感じだ。
瞳は異様に赤い。
「あれは?」
首を傾げる俺に、一年の生徒会書記が、
「おそらく、“マンティコア”でしょう。」
「あの尾には、“麻痺”の効力があると思われます。」
との見解を示す。
「ああー、それって、確か…、“キマイラ”の一種、だよな??」
俺が訊ねたところ、
「ええ。」
「いわゆる“合成獣”にカテゴライズされているモンスターに違いありません。」
そう答えた一年生書記が、
「あ!」
と、驚く。
いろんなキマイラ達が、続々と空中に浮きあがってきていたのだ。
その数、100万といったところだろう。
全員が、マンティコアと同じ色合いだった。
『およそ千年前の、実験体の成れの果てでしょう。』
『“旧魔王”より前に生産され、戦などで絶命し、ゾンビ化してしまったキマイラの可能性が高そうです。』
【念話】で全軍に述べたのは、[魔人の女王]である。
『“忘れ去られし者ども”、か…。』
『おそらく、それなりに強かろう。』
『幾つかの魔物が合成されただけあって……。』
『決して油断するでないぞ!』
そう伝えたのは[狼の王]だ。
このタイミングで、
ウオオオオ――ッ!!
マンティコアが咆えた。
それによって、俺たち連合軍の8割が腰を抜かしてしまったのである。
これを合図に敵軍が突撃を開始した。
「“咆哮”か!」
してやられた感に、俺が〝ギリィッ!!〟と歯軋りしたら、
「ご主君の方が、あれより上でしょう。」
ミノタウロス元帥が〝ニヤリ〟としたのだ。
「成程。」
意図を理解した俺は、試しがてらに、
ウオオオオオオオオ――――ッ!!!!
と“お返し”してやったのである。
その結果、キマイラどもが、恐れおののき、地面に墜ちた。
他のゾンビ達も地に膝を着いている。
合計で300万くらいだろう。
意外だったのは、霊どもが混乱に陥って、落ち着きなく〝クルクル〟回っていた事だ。
まるで、自分の尻尾を追いかける犬みたいに。
残念ながらスケルトンには効かなかったが、敵軍の半数は機能しなくなっている。
『動ける連中は、ひとまず、骸骨に対応しろッ!!』
俺の指示で、戦闘が繰り広げられていく。
『“ディスオーダー・リカバリー”を収得していらっしゃる方々は、今のうちに、お願いします!』
[馬の女王]が告げたことによって、〝は!〟とした、メスで半獣の“ユニコーン”である左近衛中将の【ビショップ】や、うちの【クレリックランサー】などの、数名が、“異常回復”を発動したようだ―。