第162話 束の間の。
会議室から出たところ、扉付近で[科学開発班]のメンバーが、俺を待っていた。
「どうした?」
訊ねる俺に、
「暖房機が完成しましたので、お持ち致しました。」
男性教師が会釈したのである。
「おお! そうか!」
「どんな感じだ?」
質問したら、教師が[アイテムBOX]から“ファンヒーター”みたいな物を取り出した。
横30㎝×高さ50㎝×幅40㎝の鉄製で、暖炉をモチーフにしているらしく、なかなかシャレている。
色は、黒だ。
「この裏に有るスイッチで温度を調整すれば、四畳~十二畳まで対応できます。」
「ご主君の部屋は広いので、全体を暖めるのは無理ですが…。」
いささか申し訳なさそうにする男性教員に、
「いや、自分の側に置いておけば問題ないだろう。」
そのような見解を示した俺が、
「これって、市場販売しているのか?」
と、聞いてみたところ、
「はい。」
「ご主君たちが“狼の国”に赴いていらっしゃるタイミングで開始いたしました。」
「前もって宣伝していたこともあって、飛ぶように売れている模様です。」
との事であった。
ティータイム後に、暖房の熱風を浴びながら、
「ああ―、快適だぁ。」
〝ほっこり〟していたところ、“ドワーフの棟梁”と、その職人4名が訪ねて来たのである。
「魔人殿! 完成しましたぞ!」
「“浴場”が!!」
誇らしげな棟梁に、
「おお―ッ!!」
「マジかぁあッ!?」
「遂に出来たんだな!!」
俺はテンション爆上がりになった。
「まずは、魔人殿が、お入りくださいませ。」
ドワーフの棟梁に促された俺は、早速、そちらへと向かったのである…。
脱衣所も、浴室も、湯船も、何もかもが、“高級旅館の温泉”みたいな装いだ。
俺は、“町の銭湯”をイメージしていただけに、
「ほ、ほぉ~う!」
瞳を輝かせた。
いや、銭湯も悪くはない。
俺は寧ろ好きな方だ。
ともあれ、体や頭を洗い終えた俺は、お風呂に浸かりながら、
「はぁ~~~~ッ、極楽、極楽。」
と大満足したのである。
その後は、いろんな面子が、代わる代わる堪能していったようだ。
当然、女性陣は、女子風呂を。
夜になり、次の日には国元へと変えるドワーフ達の送別会を催した。
ま、どんちゃん騒ぎである。
例の如く。
翌朝。
理事長と、三年生の理系を担当していた女教師が、俺の所に足を運んでいた。
[ポーション]に携わっている連中だ。
理事長が、
「HPおよびMPを回復させる、“通常ポーション”の大量生産や、“ハイポーション”と“DXポーション”の製作に、成功いたしました。」
と報告してきたのである。
魔王との死闘になるかもしれない状況で、この件は、かなり、ありがたい。
「でかした!」
喜ぶ俺に、
「“屍の国”に出立なさる皆さんに、お配りしても?」
女性教員が窺ってきたので、
「ああ、よろしく頼む。」
と、許可したのだった―。