第16話 老騎士
総大将と思しき騎士が、自身の後方に向けて、
「戻れッ! 戻れぇいッ!!」
と声を張り上げている。
俺は、その男の頭上間近で止まった。
〝ハッ!〟とした騎士が慌てて振り返り、俺の姿を認めるや否や、
「おのれッ! この魔人めがぁッ!!」
と、槍を突き出してこようとしたので、
【絶対服従】を発動させた。
これで、残りのMPが10となる。
白馬から降りた身長180㎝程の男が、顔までもが隠れている兜を脱いで、跪き、
「非礼を働いたこと、平に、ご容赦ださい。」
と頭を下げた。
歳は70ぐらいだろうか、肩までの長さがある白髪をオールバックにしている。
鼻の下および顎の髭も白い。
3ポイントを使用しての【可視化】で見てみたところ、
やはりジョブは【騎士】で、レベルは48だった。
「許そう。」
と言いながら着地した俺は、その場にドカッと胡坐座りして、
「で?」
「お前たちは何で不戦協定を無視して攻め込んできた??」
「やはり、トーキーの王と大将軍が言っていた〝5年前の遺恨〟によるものか?」
と、聞いてみたところ、
「いえ。あれは、トーキーの王子と、サータ先王の弟君が、共に討ち死になされたので、痛み分けとなっております。」
との事だった。
「ふ…む? じゃあ、何故だ??」
と、更に質問してみたら、
「大変言い辛いのですが…、跡を継がれた現国王が、所謂〝ボンクラ〟でして…。」
と語りだした。
「3ヶ月前に、先王が齢40で崩御なされ、その一人息子が王位を継承しまして…、もともと愚鈍ではありましたが、王座に就くなり権力に酔いしれたのか無茶な政策を執るばかりで、人心が離れる一方と相成りました。」
「ふむ。」
「母君であらせられる王太后が、溺愛する現王に威厳を持たせるべく、事も有ろうに“ゴブリンロード”に後ろ盾になって貰えないかと、願い出たのでございます。」
「ゴブリンロード?」
「はい。」
「サータ王国の北に位置する、通称“ゴブリンの国”の王にございますが…、〝力を貸す代わりに、トーキー王国を攻め滅ぼせ。さもなくば、サータの人間どもを食らい尽くすぞ〟と脅してきた次第で、恥ずかしながら、サータ国の王族は一人残らずこれに屈してしまったのです。」
「…、その“ゴブリンロード”の狙いは何だ? 俺か??」
「いえ、ご主君の存在はまだ知られていないかと…。」
「先日大敗を喫した第一陣の生き残り数名が、我ら第二陣の宿営地に駆け込んで参りまして、いろいろと話を聞きましたが、それほどまでに強き者がいるとは、にわかには信じられず、このように目の当たりにするまでは某も疑っておったぐらいですので…。」
「じゃあ一体?」
「おそらくは、勇者かと…。」
「そっちかい!」
「はい。」
「勇者が召喚された事は、東の大陸中に広まっていっておりますので、それを知ったゴブリンロードが、魔王以上に成長する前に息の根を止めておこうと計らったものかと、推測されます。」
「なるほど、事情は分かったが…、ゴブリンの国と戦うという選択肢はなかったのか?」
「残念ながら、勝算なき故に。」
「ん? 相手はゴブリンだろ?」
と、RPGを想像した俺は、
(どちらかと言えば、モブキャラじゃん。)
と高を括ったのだが…、
「モンスターの強さもそれぞれでして…。」
「下位クラスは大したことありませんが、中位クラスはなかなか侮れず、上位クラスともなれば歯が立ちません。」
「なかでも、ロード級の最上位クラスは、魔王の次に強いと噂されております。」
との説明が返ってきた。
現在の魔王がどれぐらいのレベルなのか知らない俺は、漠然なイメージを抱くことしか出来ず、
「そっか…。」
と、呟く以外に術がなかった。
「なぁ、“ゴブリンの国”って事は、ゴブリンしか住んでないのか?」
そう確認してみたところ、
「国に生息している魔物の6割がゴブリンで、あとの4割は他種族の集まりと、聞き及んでおります。」
と教えてくれた。
「ところで、サータ国は、何陣まで送り込んでくるつもりだ?」
と、話題を変えてみたら、
「第四陣までにございます。」
「今は、ここより1時間ほど北上した場所で第三陣が野営していますが…、明日の朝、第四陣が到着すれば、入れ違いで第三陣が南下してくる手筈になっております。」
との情報を提供してくれたので、暫く考えた俺は、
「よし! 今からそこに行こう!」
と、勇ましく立ち上がったのだった―。