第138話 締結
「フッ、フフフフフッ。」
「フハーハッハッハッハァッ!!」
「思念体だけになってまで、完全には消滅せなんだとは、あ奴らしい!」
とリヴァイアサンが愉快そうにする。
「知り合いか?」
と、質問した俺に、
「うむ。」
「かつて、殺し合うた仲よ。」
と、“水の王”が目を細めた。
なんでも、旧魔王は、世界の半分ぐらいを制圧していた頃に、陸だけでは満足できなくなって、海をも支配しようと乗り出したらしい。
そこに待ったをかけたのが、この“海の王”である。
ほぼ互角の二体は、およそ三日に亘って、不眠不休で戦ったものの、勝負がつかなかったそうだ。
その結果、おもいっきり意気投合し、“強敵と書いてともと呼ぶ”間柄になり、不戦協定を結んで、飲み明かしたらしい。
これによって、あの時代の魔王は、二度と海に手を出すことはなかったとの事である。
ちなみに、リヴァイアサンは水陸両用だそうだ。
「いや、実に懐かしい!」
「眷属に任せず、わざわざ我が自ら出張った甲斐があったわッ!」
と“水の王”が上機嫌になった。
「それじゃあ、今回のことは…?」
と、窺う俺に、
「うむ。」
「さっきので勘弁してやろう!」
「なにせ、久方ぶりに、あ奴のことを鮮明に思い出させてくれたからのうッ!」
と許してくれたのである。
俺が〝ホッ〟と安堵したところで、“海の王”が、
「我は拠点へと戻るが…、魔人よ、何か困ったことがあったら“念話”しくると良い。」
「あ奴との縁で、助けてやろうぞ!」
と、約束してくれた。
こうして俺は、ガルーダに続いて、強力な味方を得たのである。
住処へと帰っていくリヴァイアサンを見送った俺は、
「ふぅ――ッ。」
と息を吐き、
「さて。」
と、後ろを振り向いて、三年生の魔女を睨み付けた。
砂浜に正座させたウィッチを、多くの面子が囲んでいる。
割と離れた場所にテント(ゲル)を張っている連中は、全くもって騒動に気付いておらず、まだ熟睡しているみたいだ。
武術士のボクっ娘が、
「で? どうするッスか? 主様。」
「取り敢えず、ボコっとくッスか?」
と聞いてきた。
「ま、それだけの事を仕出かしやがったが…、お陰でリヴァイアサンと友好関係になれたしな。」
〝ふぅ~む〟と対処に困ったところ、
「ワザワイィ、テンジテェ、フクトナスゥ、ト、イウヤツデスネェ~。」
と、自慢げになりやがったのである。
(こいつ、反省してねぇな。)
と俺が呆れていたら、二年生書記のアサシンが、
「結局は、主様が、かつての魔王と同化していたからこそ、危機を脱したのでは?」
と述べ、一年生書記のクレリックが、
「その通りです!」
「この場に主様が居なかったら、全滅していたところですよ!!」
「然るべき処罰を与えましょう!」
と、続いた。
「どんな?」
と訊ねる俺に、生徒会長の勇者が、
「今日一日、武術士さんの特訓に付き合わせるのは如何でしょう?」
と、提案したのである。
これには、ボクっ娘が、
「いいッスねぇ~!」
と笑みを浮かべ、魔女が、
「オー、ノー!!」
と、頭を抱えた。
何故なら、体育会系ではないウィッチにとって、ボクっ娘のハードトレーニングは、地獄としか言いようがないからである…。
水平線に日が沈んでゆく。
野外に置かれた椅子の一つに腰掛けている三年生の魔女が“燃え尽きた真っ白な灰”みたいになっていた。
それを目撃した60歳くらいの男性教師が、
「まるで、矢○丈だな。」
と呟いたらしい。
翌日、ウィッチが全身筋肉痛に苦しんでいる。
一年の生徒会書記によれば、
「いくら“ヒール”であっても、怪我以外は治せません。」
との事で、動くたびに、
「オォウッ!」
「ノォアッ!」
と、顔を歪める魔女だった―。