第134話 根回し
夕刻――。
宴会が終わり、俺たちは、城の庭園に出ていた。
「俺は、ちょっと、ゴブリンロードの所に行ってくる。」
「未来において、結局、魔王が攻め込んできた際には中立を保ってもらえるよう、話しを付けに。」
「なので…、お前たちは先に帰国してくれ。」
と告げたところ、魔人姉妹が、
「それでは、お供させていただきます。」
「前ミノタウロスロードとの戦いでお世話になりましたので、お礼に赴きたいです。」
と、述べた。
更には、進化系グリフォンが、
「優れし御方よ、西方領主も伴わせてはくれないか?」
と窺ってきたのである。
半グリフォン曰く、レッドキャップの先祖の多くは、500年ぐらい前にゴブリン国から移住してきたらしい。
なんでも、亜種であるが故に疎外迫害されており、それに耐えきれなくなって、バード国に逃れてきたのだそうだ。
先々代のゴブリンロードの時に。
一部のレッドキャップは国元に残ったようだが…、そのハーフだかクオーターだかが、現在のゴブリン女王との事だ。
叩き上げである彼女は、跡継ぎを全て失っていた前ロードに実力を認められ、養女になった流れで、側位したらしい。
半獣のグリフォンが、
「現ゴブリンロードは、その出自から、亜種や余所者を冷遇しないと聞き及ぶ。」
「この国には、レッドキャップが20万体ほど存在しているのだが…、もし祖先の地元に帰りたかったり、一度くらいは見に行ってみたいという者たちがいれば、橋渡しをしてやりたいのだ。」
と、願った。
「つまり、西方領主を“親善大使”に、という訳か…。」
と納得した俺は、
「いいだろう。」
「俺からも、アイツに頼んでやるよ。」
と、請け負ったのである。
「本当に!?」
と目を輝かせる西方領主に、
「ああ。」
と、頷いた俺は、魔人の姉によって、ゴブリン国の王都へと転移した。
他の面子は、賢者がトーキー王国へと連れ立ったようだ…。
俺たちは城内の客間に通されていた。
およそ5分が経ち、入室してきたゴブリン女王が、
「久しいの! お前様よ!」
と満面の笑みを浮かべる。
「悪いな、急に訪問して。」
と、軽く謝る俺の、対面に配置してあるソファに腰掛けて、
「構わん、いつでも大歓迎じゃ!」
と返してきたロードが、
「して?」
「魔人の姉妹は見知っておるが、そっちのレッドキャップは??」
と質問してきた。
俺が経緯を説明したところ、
「ふむ。」
「よく分かった。」
「ならば、西方領主のレッドキャップを、国賓として持て成そう!」
と、快諾してくれたのである。
そんな女王が、
「で?愛しき御方よ…。」
「まさか、もう、お別れするつもりではなかろうのぉ?」
と釘を刺してきた。
「ああー、まぁ、そう、だな。」
「お前には、それ以外にも交渉しないといけない事があるし…。」
と、口ごもる俺に、
「じゃあ、全員、泊っていくがよい!」
「お前様は、妾の部屋でのッ!」
と誘ってきたのである。
無論、その日は、一晩中、ハッスルした。
だが、お陰で、いつかそうなるであろう俺と魔王との衝突には関与しないと約束してくれたのである…。
翌朝、城のエントランスで、魔人姉妹が、ミノタウロスロードとの戦闘のことを、改めて感謝していた。
ゴブリンロードが、
「なぁーに、構わん!」
と、意気揚々になる。
「じゃ、また、そのうちな。」
「うむ、息災での。」
と挨拶を交わした後に、俺と魔人姉妹は、トーキーの王城へと転移した。
西方領主のレッドキャップは、バード国からの迎えが来るまで、3~4日は滞在して、ゴブリンの女王や宰相らと、これからのことを相談していくそうだ。
トーキー城へと到着した俺は、今現在のミノタウロスとオークのロードたちに、【念話】で、魔王に味方しないよう、促した。
その結果、双方ともに、事が起きた場合には、どちらの肩も持たないと決めくれたのである。
ゴブリン女王も念話で良かったのかもしれないが…、アイツは躰に語り掛けた方がより効果的なので、そういう措置を取ったのだ。
敢えて。
ともあれ、トーキーの王都で生活している異世界召喚らとモンスター達が、合宿に向けてアゲアゲになっている。
連中が羽目を外して、トラブルに発展しなければいいのだが…。
なんだか嫌な予感がする俺だった―。