第133話 なんだかんだで
「合宿か…。」
と俺が、森人族の長に視線を送ったら、
「その未来はなかったので、良いかもしれませんね。」
「少しでも違うことを行うという意味では。」
と、頷いたのである。
しかし、トーキーの小将軍に、
「我々の国は内陸なので、海がありませんけど。」
と指摘された一年生書記が、
「ハッ! そういえば…。」
と、絶句した。
いや、今更かよ。
「うぅ~、最低でも一週間は、海で泳いだり、浜辺でBBQやスイカ割りにビーチフラッグとかやって、夏を満喫したいのにぃーッ。」
と残念がる一年の生徒会書記に、
「遊ぶことしか考えてねーじゃねぇか。」
と、ツッコんだところ、
「いえいえ、ちゃんと修行もしますよぉ~。」
「例えば、私であれば、“クレリックランサー”になるため、主様に槍の扱い方を指導してもらう予定ですし。」
と返してきたので、
「俺は我流だからな…、寧ろ、こっちが、誰かしらに教わりたいぐらいだ。」
「それに、お前は、杖以外の武器を装備できないだろ、そもそも。」
と述べたら、
「……。」
「じゃあ、私は、どうやってジョブを進化させればいいんですかぁッ!!?」
と、半ば逆ギレしやがったのである。
「知るか!」
と俺が眉間にシワを寄せたところ、冒険者パーティーの【騎士】で槍を用いているハーフエルフ兄が、
「自分が、お力添えしましょうか?」
と、申し出てくれた。
更には、【魔術師】であるエルフ弟が、
「杖を、槍に見たたれば大丈夫でしょう。」
「私は、敵に急接近されて魔法の構築が間に合わない場合、そのようにしていますし。」
と続いたのである。
これに、メガネっ娘の【クレリック】が、
「それですよー!!」
と、テンション爆上がりになった。
「では、私どもの国の、東の海岸を、お使いください。」
と提供してくれるエルフの国主に、
「いいのか?」
と、俺が訊ねたところ、
「ええ、構いません。」
「皆さんには、二度も助けていただきましたので。」
と微笑んだ。
一年生書記が、
「じゃあ、トーキー王国に帰ったら、水着を作ってもらいましょう!」
と、ルンルン気分になる。
それに対して、トーキーの大将軍が、
「ふぅ~む…。」
「我々は無理そうですな。」
と難しい顔つきになった。
「なんでだ??」
と、首を傾げる俺に、トーキー中将軍が、
「数日後には、“先祖礼拝”の期間に突入しますので。」
と答えたのである。
彼らによれば、5日ほど、祖先を偲んで、お墓参りに行ったり、親族で過ごすのが、この世界における人族の習わしなのだそうだ。
日本に置き換えると“お盆”のようなものだろう。
職業によっては、全員が一斉に休みを取ると困るので、“先”と“後”に分けているらしい。
例えば、街中を巡回したり国境付近に駐屯して治安維持に努めている兵士や、自然を相手にしている農家などが、そのように計らっているそうだ。
所謂“シフト制”である。
ちなみに、エルフやドワーフなどの妖精族と、獣人や半獣には、秋に豊穣を祝う連休があるらしい。
魔族に関しては、そういうのは皆無との事だ。
トーキーの小将軍が、
「私たちのことは気になさらず、合宿を行ってください。」
「それで未来を変えられるのであれば、本望ですから。」
と、勧めてくれたのである。
これを受けた勇者が、
「それでは…、こちらの世界で暮らしている全校生徒と、教師の方々も誘いましょう。」
「折角ですので。」
と提案したのであった―。