第130話 グルル・ヤクシャ
勇者が、
「主様、どうします?」
「すぐにでも出発しますか?」
と窺ってきたので、
俺は、
「いや、皆、疲れてるだろうから、止めておこう。」
「最悪、バードロードと戦うことになるかもしれんしな。」
と、答えたのである。
「ところで、そっちに“瞬間転移”を使える奴はいるのか?」
と訊ねる俺に、中将軍のサンダーバードが、
「軍勢のなかに、幾らかは。」
「なので、王城に直通するのも可能だ。」
と、返してきた。
俺は、全員に、
「そっか…、じゃあ、今日は、もう、ゆっくりしよう。」
「明日に備えて。」
と促した。
一旦、解散となったタイミングで、魔人の姉が、誰かに【念話】している。
妹が言うには、地元の父親に、大叔父が仕出かしたことを伝えているのだそうだ。
彼女たちの父から“魔人の王”へと報告してもらい、国からアサシンらを方々に放つなどして、本人が何処に居るのか探してもらうつもりらしい。
これ以上の犠牲者を増やさせないのと共に、大叔父に罪を償わせるべく捕縛するつもりのようだ。
親族としての責任を果たすために…。
一夜明けてのAM10:00頃――。
俺は、まず、鳥たちの軍勢を、それぞれの地元へと帰らせた。
その後、バード国の幹部たちと一緒に、城の1Fエントランスへと転移したのである…。
鳥の王は、最上階にある自室に籠っていた。
部屋の扉前で、大将軍であるグリフォンが、
「取り敢えず、我々だけで王と話してみるので、優れし御方たちは、ここで待機していてくれ。」
と、慎重になったので、俺は、
「ああ。」
と頷いたのである。
閉ざされた大きな扉の向こうから、
「何ッ?!」
「魔人だと!!?」
「どういう了見で、勝手に連れてきたッ?!!」
と、男の怒鳴り声が聞こえてきた。
サンダーバードが、
「お、お待ちください!」
「どうか、我らに説明する機会を、お与えくださいませ!!」
と慌てている。
更に、進化系グリフォンが、
「納得いただけなかった場合は、私の首を差し出しますので、お願い致します!」
と、説得を試み、南方領主のトロールや、西方領主のレッドキャップなどが、
「自分の命も奪われて構いません。」
「私も。」
と続いたようだ。
それからは、暫くの間、室内が静かになった。
数分が経ち、扉が開かれ、顔を覗かせたレッドキャップが、
「代表者たちだけ入って。」
と、述べたのである。
そこで、俺を筆頭に、トーキーの賢者/魔人姉妹/森人族の長が、入室したのであった…。
ベッドに腰掛けていた男が〝スッ〟と立ち上がった。
背丈は1.8Mくらいだろうか?
腰あたりまで伸ばしている髪と、眉に、瞳や、鳥の翼は、黒紫色である。
痩せ型のイケメンだが、全身は青白く、あまり生気を感じられない。
服装は、チベット仏教の僧侶たちが来ている袈裟が、黒と白になったようなイメージだ。
“グルル・ヤクシャ”に変わってしまっている鳥の王が、
「俺の所為で、部下が、エルフの国や、多くの者たちに迷惑をかけたようで、すまなかった。」
と頭を下げる。
俺は、
「いや、こちらとしても得るものがあったから、気にしなくていい。」
と、軽く首を横に振った。
俺らにとってのプラス面は、うちの面子がレベルアップしたのと、【弓士】と【武術士】が誕生したり、新たなアーティファクトが眷属の手に入った事である。
いずれにせよ、俺は、バトルにならずに済んだことに、人知れず〝ホッ〟と胸をなでおろす。
「早速だが、うちの連中に、その足枷を見させてもらってもいいか?」
と確認した俺に、
「ぜひ、頼む。」
と、承諾するグルルであった―。