第13話 鉄槌
定刻になった。
北門の外には、大将軍率いる25万人の兵と、勇者一行402名に、王城で性活している約2000体のモンスターが揃い踏みしている。
ちなみに、中将軍と小将軍は留守番だ。
賢者が、
「私を中心に円陣を組んでください。」
と言ったので、そのようにした。
賢者が両手で持った杖の先を地面に着けて、両眼を閉じ、意識を集中していくと、全員がスッポリと収まるほど大きくて白い魔法陣が現れた。
カッと目を見開いた賢者が、
「瞬間転移!」
と、唱えた次の瞬間、景色が一変したので、皆が、
「おおーッ。」
と感嘆した。
それを他所に、賢者が、
「あまりにも至近距離だと敵にバレて直ぐに戦闘になるかと思いましたので、少し離れた場所に移動させていただきました。」
そう述べたので、
「構わん。」
と返した。
「私はもう歳ですので、戦に参加するのは厳しゅうございます。それと、例の“ライフル”を作成したいので、これで失礼しても構いませんでしょうか?」
との事だったので、
「ああ、良いだろう。」
「また明日にでも連絡する。」
と、承諾した。
すると賢者は自分の足元にだけ魔法陣を展開させて、
「それではこれにて。」
と頭を下げ、俺たちの前から〝シュンッ!〟と消えた。
「さて…。」
背中に翼を出現させて宙に浮いた俺が周りを見渡してみたところ、要塞までは西へ200M程の距離がありそうだった。
「俺は先に行く!お前たちは大将軍の号令に従え!!」
と下知して、要塞へと飛行する。
後方からの、
「全軍! 速やかに隊列を整えよッ!!」
との大将軍の指示を聞きながら、スピードアップしていく。
グングンと距離が縮まり、その全貌が見えてきた。
10万人が生活できる程に広い要塞都市は丘の上に存在している。
いびつな円形状の丘を石レンガで補強しており、この丘自体は7~8Mの高さがあるようだ。
そんな丘の上には、高さ12~13Mで三層になっている砦が東西南北の端に1つずつ、都市の中心には2階建ての屋敷が、これらの砦と屋敷の狭間に沢山の平屋が見受けられる。
要塞を包囲している200万の敵軍は、魔法や矢で攻撃している者たち、外壁に掛けた梯子を登ろうとしている連中、門を破壊しようとしている奴ら、突進するタイミングを窺って待機している群衆、といった具合に4つのチームに分かれていた。
要塞を守る兵たちも、魔法や矢などで応戦している。
この要塞都市のほぼ中心あたりの上空でストップした俺は、両の掌を掲げた。
地面から50Mぐらいの位置(空)に、要塞都市の倍はある大きさの黄色い魔法陣が出現する。
敵も味方も関係なくこれに気付いた者たちが、
「なんだあれは?」
「ここまで巨大な魔法陣は見たことがない。」
「あそこに何かいるぞ!」
「魔物? いや、人か!?」
と、騒ぎ出した。
俺は、それらを聞き流しながら、厳かに、
「神の如き鉄槌を受けよ。」
と言葉を発して、勢いよく両手を振り下ろした。
同時に、無数の雷が、要塞都市を避けつつ、敵軍に落ちていく。
視界を奪われる激しい稲光に伴い、
ズバババババババババババババアアァァンッ!!!!
と、耳を劈く凄まじい音が響き渡った。
1000ポイントのMPを使用した攻撃に、敵軍の半数が真っ黒こげになる。
誰とも判別つかない遺体が、2~3秒後には灰塵と化し、風に吹かれ逝く。
生き残った人々は事態を呑み込めずにいたが、その場から軍馬たちが逃げ出した事によって我に返り、
「うわぁあああッああッ!!!!」
と絶叫しながら方々に散っていく。
なかには、何度も足がもつれて転がる連中や、腰を抜かして立ち上がれず這うようにして去っていく奴らもいた。
悲しいかな、そこに突撃してきた大将軍たちに狩られていく者も少なくない。
『皆、深追いはするな。』
『それから、魔物たちは敵を捕食して良いものとする。』
この【伝言】に、モンスター達が喜び勇む。
余談だが、普段は、城の料理人たちが、彼らに動物の生肉や生野菜を提供してくれている。
遠ざかる喧騒を認めながら、俺は要塞都市へと下降していった―。