第119話 VS.バード国の幹部たち・其之伍
南方領主のトロールが、足元でヒット&アウェイを繰り返している面子に、
「えぇいッ! 鬱陶しい!」
と、中華包丁にも鉈にも見えるラージソードを、〝ブンッ!〟〝ブンッ!〟振るう。
その後方に、聖女が直径1Mの白い魔法陣を展開して、同じ幅の【光線】を発し、
ドンッ!!
と背中に命中させた。
「ぐッ!」
と、眉間にシワを寄せる南方領主の右足に、〝カッ!〟と輝いた一年生のボクっ娘が右の掌底を、
バンッ!!
と当てたのである。
これは、武闘家のスキル【破動】で、その一瞬だけ攻撃力が2倍になるらしい。
消費MPは40であり、LV.100未満は1日5回、100以上は1日10回の、使用限度との事だ。
ちなみに、某・死神たちが扱う“破道”ではない。
なにはともあれ、ボクっ娘のそれが、トロールの脛当てを、
ボンッ!!
と、陥没させたのである。
【加護】の効力もあるので、彼女の攻撃力のみ一時的に4倍になっていたようだ。
その結果、南方領主の右脛(骨)に、
パキンッ!
とヒビを入れた。
これに、
「ぐおッ!!」
と、苦悶の表情を浮かべた敵のトロールが、左膝を地に着ける。
ここぞとばかりに【破壊】を発動させたミノタウロス元帥が戦斧を振り下ろすも、南方領主が大剣を横にして防ぐ。
しかし。
それを物ともせず、
バッキィンッ!!
と切断したバトルアックスが、相手の左肩に、10㎝ぐらい、
ズブシュッ!
と、刺さった。
「ぬうぅ~ッ!!」
と歯をくいしばる敵の、兜の右側に、大盾が、
ガンッ!!
と、ヒットする。
どうやら、こっちのトロールが【シールドスウィング】を用いたようだ。
兜に亀裂を生じさせて、なおも止まらなかったグレートシールドが、南方領主の右側頭部に3~4㎝くいこむ。
流血と共に脳震盪を起こし、仰向けで、
ズドォンッ!!
と倒れた敵に、ハーフエルフの国主補佐官が【抑制】を発した。
右腕・左腕・胸部・腰回りを、白銀かつ半透明の鎖で〝グルグル巻き〟にしたのである…。
地面から15M程の高い位置で、北方領主のハーピーと、俺の眷属である5体のハーピーたちが、背後を取り合おうと旋回していた。
さながら、戦闘機が登場する映画や、〝飛ばねぇ○はただの○だ〟の物語で描かれているような、ドッグファイト(エアーバトル)だ。
グンッ!
と、降下した相手を、うちの連中が追う。
が。
7~8Mの所で、急に、
ギュンッ!!
とUターンで上昇した北方領主に、置いてけぼりにされてしまった。
〝ピタッ!〟と静止した敵のハーピーに【爆裂尾羽】を放たれてしまい、咄嗟に躱しきれなかった5体が墜落していく。
「フンッ!」
と、勝ち誇る北方領主の左首に、
ヒュウウゥゥ――ッ!!
と空を切り裂いた矢が、
プスリ!
と的中した。
二年生の弓道部エースによって討られたものだが、いささか距離があったので、致命傷には至らなかったようだ。
左手で矢を引き抜いて、
「よくもッ、人族めぇッ!」
と、怒りを顕わにした敵が、空中から一直線上に突撃してくる。
そこを狙いすましたかのように、砦の指揮官である【魔術師】の男性エルフが、直径2Mの“火炎”を放った。
ゴオオオオッ!!
と迫りくる炎を右に避けた相手に、幅10㎝×長さ1Mで“針みたいな形状の水”が飛んで行く。
剣士のハーフエルフ妹による【伝導】だ。
逃れることが出来ず、左の翼をそれで貫かれた北方領主が、バランスを崩す。
墜ちてくる先に待ち構えていた砦の副官(女性)である【戦士】が、バトルアックスを右から左へと払った。
鎧の胸元を、
バンッ!!
と打たれた敵のハーピーが、
「がはッ!」
と、地に全身を叩きつけられ、うつ伏せになる。
「ぐうぅぅぅッ!」
と起き上がろうとする北方領主を、4体のアラクネが“糸”で拘束していくのだった―。