第112話 ゴーレムのダンジョンに関して
[ゴーレムのダンジョン]の話しは、こうだった…。
まず、およそ千年前の、この世界には、二つの帝国があったのだと云ふ。
一つは“東の大陸”の4割ほどを制圧しており、男性である皇帝が治めていたらしい。
もう一つは“北の大陸”の6割ぐらいを統べていた女帝による大帝国だ。
どちらも“世界征服”を目論んでおり、東の帝国はゴーレムを、北の大帝国はキマイラを、それぞれに生産していったらしい。
その際に、よりもっと効率を上げるべく、東の皇帝は、人族の魔導士や魔術師に、エルフ族と、ドワーフ族の、子供たちを、人質に取ったとの事だ。
この帝国の本拠地は、今のトーキー王国だが、昔は“ムーサ―”という国名で、その東隣(現バラーキ)がエルフ国であり、北隣(現サータ)がドワーフ国だったらしい。
いずれにせよ、子供らを質にされてしまい、誰も逆らえなかったみたいだ。
が。
その当時の“森人族の長”も【見通す眼】を継承していたので、回避できたのに、ある考えがあって、敢えて皇帝に従ったらしい…。
一方、北の女帝は、“最強のキマイラ”を完成させようと思い、ドラゴンの捕獲に乗り出した。
だが、そう簡単にいく訳もなく、多大な犠牲が生じたので、この難問を解決する為に、[勇者召喚]を行ったそうだ。
彼らは、大帝国側に、「東の脅威に対抗して、世界に平和をもたらすには、竜を用いたキマイラが必要不可欠」と嘘を吐かれ、それを信じ込んでしまったらしい。
異世界に召喚されてから約半年が経ち、鍛錬によって結構なレベルになっていた勇者たちは、遂に、一体の“ブラックドラゴン”を捕まえた。
それが、アイツである。
なにはともあれ、勇者らの誤った活躍によって、結局、そのキマイラが誕生してしまったのだ。
その頃に、北の女帝たちの本当の狙いを、ようやく知った勇者一行ではあったが、黒竜を軸としたキマイラに打ち負かされてしまい、西の大陸を通過して、南の大陸に逃れたらしい。
そして、荒れ狂い暴れまくって北の大帝国を壊滅させたこのキマイラが、【魔王】と呼ばれるようになったのである。
尚も怒りが静まらない魔王と、それを支持するモンスターらが、北の大陸を隅々まで蹂躙していくなか、東の大陸の7割にまで版図を拡げていた帝国が討伐を試みて、ゴーレムを中心とした軍勢を送り込むも、大敗を喫してしまった。
これに恐れをなした皇帝が、自分の一族を伴って非難する場所として造らせたのが、あの“ダンジョン”とのことだ。
その時に、[鋼]以上のゴーレムたちも製造させて、万全を喫したらしい。
しかし、それは、徒労に終わってしまう。
世界の殆どを支配した魔王軍に、かつてよりレベルアップした勇者たちが巻き返していく。
その流れで、命を賭した勇者によって、“キマイラの魔王”を封印することに成功したのである。
それとほぼ同じタイミングで、人質を連れてダンジョンに籠っていた皇帝一族は、人族/エルフ族/ドワーフ族の反乱によって、殺害されてしまったらしい。
ちなみに、人質の全員が無事に救出されたとのことだ。
どうやら、森人族の長は、混血であるハーフエルフたちが、純血のエルフらに疎外され続けている状況を、改善したかったらしい。
なんでも、互いに協力して人質にされている子供たちを助け出すことによって、エルフがハーフエルフに感謝し、冷遇が減少する未来を見たので、わざと東の帝国の言いなりになったそうだ…。
「なるほど。それが、この世界の歴史か。」
と、少なからず理解を深める俺であった―。