第11話 隣国の進軍
その日は、朝食後に会議を開いていた。
左席に、国王・宰相・賢者・大将軍・中将軍・小将軍が、右席には、勇者・理事長・理系の教職員男女4名が、それぞれ座っている。
まずは、理事長が、
「実施いたしましたアンケート調査によりますと、これからも戦闘に参加するという者たちは教師と生徒を合わせて402名となり、それ以外は転職を希望しております。」
と、報告した。
「400人か…、俺の予想より多いな。」
「100人も残らないだろうと思っていたからな…。」
「私も以外でした。」
と続いた勇者が、更に、
「あの、主様、スポーツ系の部活に所属していた者たちが、そのような場を設けて戴けると有難いと申しておりますが…。」
と、述べる。
「つまり、競技場が欲しい。と?」
「はい、そのようで…。〝簡単ではない〟とは言っておいたのですが…。」
「そうだな…。」
「この世界にスポーツを普及させ、やがて王国内でプロ化させれば、至る所から観戦客が訪れて潤うかもしれんな…。」
「だが、それにはまず、王たちに理解してもらわんといかんから、いずれ発表会みたいなものを開催しよう。」
「はッ!そのように伝えておきます!」
次に賢者が弁論した。
なんでも、数ある化学から、「“ライフル”であれば、魔石と融合して、比較的早く作成できそうです。」との事だった。
「では、そのように段取りせよ。」
と指示していたら、
『今、宜しいでしょうか?ご主君。』
と、誰かが俺の脳内に語り掛けてきた。
俺は、自分の人差し指と中指を、左のこめかみに当てる。
【伝言】や【念話】を使用する際には、この様なポーズを取らないといけない。
ちなみに、右であっても良い。
『誰だ?』
と訊ねたところ、
『初めて御意を得ます。』
『サータ王国に程近い、トーキー王国の北方領土に住もうておる者にございます。』
との返答があった。
こいつは、体毛が赤いモグラの魔物であり、身が1M程度で、硬くて大きな黒い爪を所有している、オスらしい。
『うむ。それで?』
『はッ。実は先ほど、サータ王国の軍勢が国境を越えまして、カーダ要塞の方角に向かっているのが見えました。兵数は200万に上るかと…。』
『!』
『そうか…、火急の知らせ、大儀であった。』
『ありがたき幸せにございます。』
やり取りを終えた俺は、その内容を皆に教えた。
すると、国王と大将軍に小将軍が、
「なんですと!?」
と、立ち上がった。
「サータ王国に、カーダ要塞とは?」
と質問したら、中将軍が冷静にアイテムBOXから地図を出し、テーブル上に広げた。
それを元に、まず、王が、
「我らの国の北に位置しているのがサータ王国にございます。」
「この国とは5年前まで激突を繰り返していましたが、互いに疲弊したので不戦協定を結び、それ以来、干渉し合わず平穏に過ごしてまいりましたが…。」
「まさか、再び国境を越えてくるとは!」
と、発言して、忌々しそうにした。
5年前と言えば、彼の一人息子と、元々の王妃であった第一夫人が、この世を去った年だ。
第一夫人は、王子を戦で失ったショックで、何も喉を通らなくなり、衰弱が原因で他界してしまったらしい。
第二夫人は約20年前に病に倒れ、そのまま…、との事だ。
第二夫人に子はなく、第三夫人が新たな王妃となったので、彼女の一人娘である姫が王位継承権を有しているとの話しだった。
苦虫を噛み潰したような顔つきになっている国王を見れば、サータ王国とは因縁浅はかならぬ間柄であろうという事が容易に察せられた。
大将軍が怒りを堪えたかのように、
「そのサータ王国との国境に最も近いのが、カーダ要塞にございます。」
「この要塞は街にもなっておりまして、それなりに規模が大きく、10万に及ぶ兵が自給自足しつつ、配給支援も受けながら生活しております。」
と説明した。
また、
「サータの軍勢が国境を越えて間もないとなれば、およそ30分後には戦闘に突入することが予測されます。」
と、付け加えた。
「しかし、200万とは…。」
「一国を攻め落とすには少ない気がしますが…。」
と述べたのは小将軍だ。
「そうなのか?」
と、聞いてみたところ、大将軍が、
「はい。敵は、1000万人ほどの兵数を有している筈ですので…。」
「しかしながら、自国のモンスター達や賊どもが騒ぎを起こしたり、隣国から攻め込まれるのを想定して、ある程度の守兵を残しておくとしても、600~800万人は導入できるかと…。」
と答えた。
これを受けてか、中将軍が、
「おそらく、第一陣なのでは?」
「これから、第二陣、第三陣と、投じてくるかもしれません。」
との見解を示す。
「そっか…。」
「ま、いいや。取り合えず俺が一っ飛び行ってくるわ。」
と、席を立とうとしたところ、国王と大将軍に、
「なりませぬ!」
「お待ちください!」
と反対された。
まさかの態度に、俺は少し引いてしまった―。