第109話 及第
サテュロスが縦横無尽にレイピアを振るう。
それを、[大地の槍]で〝ガキィンッ!〟〝ガシャンッ!〟と防ぐだけで精一杯の俺が、
「くッ!」
と眉間にシワを寄せる。
元四将軍が、
「なかなか、やりますねぇ。」
「では、これはどうです?」
〝ビュオッ!〟と、俺の顔面めがけて剣を突いてきた。
「うおッ!」
と急ぎ避けるも、躱しきれなかった俺の右頬に、
スパッ!
と、5㎝ほどの切り傷が生じる。
ほぼ同時に、俺が右から左へと払った槍が、
ドンッ!
とサテュロスの左脇腹に当たった。
「ぐぅッ!」
と、表情を歪めた元四将軍が2歩ぐらいのバックステップで距離を取り、
「ふぅ――ッ。」
と息を吐く。
サテュロスと睨み合う俺に、一年生書記が、
「主様! すぐに“加護”を発動しますので、お待ちください!」
と、声を掛けてきたので、
「いや、いい。」
「多分、これは、そういうのじゃなさそうだから。」
と断ったら、勇者/聖女/ミノタウロス元帥/二年生書記あたりが、
「なに意地を張っているのですか?素直にお受けください、主様!」
「そうですわ! せっかくオークロードを倒したというのに、ここで命を落とすようなことがあっては、全てが台無しでございます!」
「然り! 〝負けたら終わり〟ですぞ、ご主君!」
「駄駄を捏ねていないで、さぁ、主様!」
と、言い出し、他の連中も釣られるように〝あーだ こーだ〟と騒ぎ始めたのである。
「喧しいわッ!」
と俺がツッコんだところ、
「ぷッ!」
「はははははッ!」
と、笑った元四将軍が、
「うん!」
「君たちであれば、問題なさそうだ。」
と頷き、レイピアを鞘に収めて、
「僕たちも、新たな王を祝うとしよう!」
と、告げたのであった…。
白のワイシャツに、黒の革靴/パンツ/ベスト/ネクタイと、赤の上着といった、タキシード姿になっているサテュロスが、客間のソファに腰掛けて、紅茶を嗜む。
テーブルを挟んで対座している俺が、
「で?」
「どんな目的だったんだ?」
と訊ねたら、
「ふむ。どこから説明するべきか…。」
「……、僕や東方領主は、先王、あー、つまり…、北方領主と西方領主の父君には忠誠を誓っていたんだけど…、君たちが勝利したロードには反感を抱いていたんだ。」
「なにせ、前オークロードは、混血の社会的地位を向上させようとしたり、僕たちみたいな余所者であっても重く用いてくれたからね。」
「けれど、跡を継いだ息子は、純血のオーク以外を冷遇するつもりだった…。」
「エルフの国を制圧した際には、そこを開拓する為の奴隷にしょうと企んでいたみたいだしね。」
と、述べた。
ちなみに、未だ正装になっていない東方領主は、大広間の床で、うちのミノタウロスやトロールと、腕相撲による力比べを楽しんでいる。
それを見物している外野も盛り上がっているようだ。
「なので…。」
と再び口を開いた元四将軍が、
「北方領主がロードになって、この国を改善していってくれるのであれば大賛成だし、惜しみなく協力したいと思っているんだ、僕も彼も。」
「ただ…、“トーキーの魔人”とやらが、女王陛下を裏で操るような“不逞の輩”だったならば成敗しようと、確かめさせてもらった次第さ。」
と、語ったのである。
「それで…、合格したという訳か?俺は。」
と窺ったところ、
「そうだね。」
「剣を交えた印象に、眷属との関係性も含めて、文句なしだよ。」
と、締め括るサテュロスだった。
戴冠式からの昼食を経て、オークロードとなった前北方領主が、城のバルコニーから民衆に手を振っている。
それを背後から見守る俺に、エルフの国主から【念話】が入ったのであった―。