第108話 来訪者たち
その城兵によると、中庭に客が来ているとの事だった。
「誰だ?」
と聞いてみるも、
「は! それが、そのぉ…。」
と、要点を得なかったので、
「まぁ、いい。」
と述べた俺は、皆と共に、そちらへと向かったのである。
階段を下りていく途中で、北方領主の補佐役が、
「元四将軍に、東方領主!」
と、驚き、オークの姫たちが息を呑んだ。
そこには、半獣である“サテュロス”と、純血の“トロール”が、一体ずつ佇んでいた。
ちなみに、どちらもオスである。
サテュロスの方は、背丈が175㎝程で、白い髪を腰あたりまで伸ばしており、瞳はスカイブルーだった。
頭には、カフカスツール型の黒い角が生えている。
トロールは、身長5Mで、青と黒が入り混じったような髪をショートモヒカンにしていた。
うちのトロールに、俺が、
「知り合いか?」
と訊ねる。
「いいえ。」
「もしかしたら、先祖は同じかもしれませんが…。」
と、返ってきたところで、サテュロスが、
「君だね。」
「僕の召使い達が“ご主君”だの“主様”だのと呼ぶようになった“トーキーの魔人”とやらは。」
と声を掛けてきたのだ。
「そう、だが…。」
「ここには何をしに来た?」
と、牽制する俺に、
「なぁに、オークロードを倒したらしいので、一つ僕と手合わせしてもらいたくてね。」
〝ニッ〟と笑みを浮かべるサテュロスであった…。
庭の中心で、俺と、ソイツとが、対峙する。
元四将軍でレベルが137のサテュロスは【魔法剣士】であり、黒のアーマーと赤の首掛けマントを装備していた。
ついでに、東方領主であるトロールはLV.124の【戦士】で、金の甲冑に、肩当てと一体化している青マント、といった格好だ。
右手に細身の剣を握っているサテュロスが、
「それでは、いつでも、どうぞ。」
と促したので、俺は、
「じゃあ、遠慮なく。」
と、背中から翼を出現させるなり低空で距離を詰めたのである。
「おッ?!」
と目を丸くしながらも、俺の、[大地の槍]による突きを、かつてのジェネラルが〝ヒョイッ〟と躱す。
闘牛のように往なされた俺の左斜め後ろから、
バチッ!バチバチッ!バチィッ!
との音が響いた。
そっちを見て、
「まさか??!」
と、疑った俺に、サテュロスが、左から右へとレイピアを薙ぎ払う。
幅10㎝の“雷撃”が横一文字に飛んでくるのを認識した俺は、槍の先で地面にラインを引き、
ズドォーンッ!
と縦2M×横1M×幅50㎝の“土の壁”を展開したのである。
バァアンッ!
と、ヒットした雷によって、壁が〝ボロボロ〟と崩れゆくなかで、
「ひょっとして、アーティファクトかい?!」
と元四将軍が目を輝かせた。
「ああ、“大地の槍”だが…、そっちこそ、今のは、“伝導”じゃないのか?」
「だとしたら、エルフ族しか扱えない筈じゃ??」
と、首を傾げる俺に、サテュロスが、
「うん、基本的にはね。」
「だけど…、レベルが100を超えた“魔法剣士”であれば、収得できるよ。」
と答えたのである。
これに、うちの魔法剣士が、座っていた階段から立ち上がり、
「ホントに!?」
「それじゃあ私も、あと少しで使えるようになるのねッ?!」
と、熱くなった。
「ん? 君は“魔法剣士”かい?」
「だったら、〝間違いなく〟と、僕が保証するよ。」
と太鼓判を押した元四将軍に、俺の眷属である魔法剣士が両手でガッツポーズしながら、
「くぅ~ッ!」
と、感無量になったようだ。
他人のことは言えないが、うちの連中は割と“厨二”である。
…………。
「さて、仕切り直しといくか?」
と窺う俺に、
「ぜひ、そうしよう。」
と、頷くサテュロスだった―。