第107話 彼女らの悲願
その場に大盾を捨てた[豚の王]が、自身のアイテムBOXに左手を入れ込む。
おそらく、“回復ポーション”を取るつもりなのだろう。
しかし、それよりも速く、俺が、[大地の槍]の先端で、地面を勢いよく掬ったのである。
それによって、1つだけ出現した最大幅3M×長さ6M程でクリスタル形の“土の塊”が、
ビュオッ!!
と、飛んでいく。
その塊が、胸元に、
ドォオンッ!!!!
と直撃したオークロードが、
「がはッ!!」
と、口から血を吐いて、仰向けで〝ズドンッ!〟と倒れた。
改めて背中に竜の翼を展開し、宙に浮いた俺が、敵の胸元に乗ってみたところ、猪から豚の姿に戻り、気絶していたのである。
柳沢○吾ばりに、
「あばよ!」
と声を掛けた俺は、オークロードの首に、槍を突き刺したのであった。
魔人姉にロードを、魔人妹にオークソーサラーを、火炎魔法で調理してもらい、某ゲームの「上手に焼け○した」状態になった豚の兄弟を、肉食系の魔物たちが分け合っていく。
ま、それはそれとして。
俺のレベルが119になった。
聖女がLV.53で、魔人妹はLV.111の、魔人姉がLV.113となっている。
一年生の【武闘家】である“ボクっ娘”は3つUPしてのLV.40であり、二年生で【狙撃手】の“弓道部エース”は5つ上がってLV.42になったようだ。
今回は、この面子しかレベルアップしていない。
残念ながら…。
俺が、北方領主に、
「あの局面で、よく、“ディスオーダー・リカバリー”とやらを発動できたな。」
「お陰で、助かった。」
と、感謝の意を表明したら、
「恐怖に震えながらでしたので、いささか遅れてしまい、申し訳ございませんでした。」
と謝ってきたので、
「いや、誰も死なずに済んだんだから、気にすんな。」
と、述べたのだった。
「ところで…、この国で他に強い奴らの事を教えてくれねぇか?」
と訊ねてみたところ、領主補佐役が、
「まずは、隠居している元四将軍ですが…、1体は寿命で半年前に亡くなっております。」
「それ以外に、東・南・西の領主たちと補佐役がおりますが、西方は、姫の異母姉妹であり、こちらの味方ですので、問題ございません。」
「各領主と補佐役のレベルは115~125ですが、かつてのジェネラル方はLV.135~140だったかと…。」
と、答えたのである。
「!」
「さっき倒したオークロードと互角ぐらいか?!」
「ソイツラが束になって掛かってきたらヤバそうだな。」
「……。」
「だが、まぁ、やるしかねぇか!」
と覚悟を決めて、オークの国を丸ごと【絶対服従】させた俺は、
『我は、“トーキーの魔人”なり。』
『現王と、その弟らを死滅させた故に、連中と同じ血筋である北方領主を新たなロードに即位させる!』
『一時間後に戴冠式を執り行うので…、それぞれの忠義に期待しているぞ!』
と、【伝言】したのだった。
20分後に、西方領主が、5名の配下を伴って、“謁見の間”に【瞬間転移】してきた。
その背丈は170㎝くらいだろう。
背中あたりまでの長さがあるライトブラウンの髪を三つ編みにして、黄色のドレスを着用している。
北方領主よりは鼻筋が通っているが、割と似ていた。
およそ一年ぶりに再会したらしい彼女たちは、互いの両手を握りしめて喜んでいる。
「お姉様…、ここまで、よく耐え忍ばれましたね。」
「本当に、おめでとうございます。」
と、涙ぐむ妹に、
「泣かないで。」
「苦労したのは、貴女も一緒でしょ。」
「全てが始まるのはこれからよ。」
と姉もまた目頭を熱くしたのだ。
そこに、城兵の一体であるオークが、急を告げるべく、慌ただしく入室してきたのであった―。