第106話 逆転
二度目の【咆哮】を発動させようとする[豚の王]の首を、
ガシッ!
と掴んだミノタウロス元帥が、そのまま〝ギリギリィッ〟と絞めていく。
「ぐッぬぅ~ッ!」
と眉間にシワを寄せたオークロードが体を白く光らせ、【横断】を実行する。
ラージソードを、左腹部(鎧)にヒットさせられた元帥が、派手に、
ドォンッ!!
と、倒れたと俺は思ったのだが…。
「フンッ!」
「当たる前に、自ら横に飛んで、直撃を逃れたか。」
とロードが解説したので、
(そうなのか?)
と、ミノタウロスを見てみたところ、
「造作もないことよ。」
と余裕そうに立ち上がったのである。
何かに〝ピクッ!〟と反応した[豚の王]が、大剣を薙ぎ払う。
奴の右側から近づいて来ていたトロールが、上体を逸らして、それを躱した。
この牽制によって間合いを詰められなくなったトロールと、ミノタウロス元帥とが、敵を挟んで、膠着状態に陥ったのである。
そこに、“青く輝く矢”が、
ビュンッ!
と、飛んでいき、オークロードの右太腿に、
ズブシュッ!
と刺さって、
バキバキバキバキィッ!!
と、その脚を凍らせた。
これは、“狙撃手”のエルフ姉による【伝導】であった。
「ぬぅ~ッ、小癪な耳長めぇッ!」
と彼女に意識が削がれたロードの隙をついて、トロールが“棘付きの鉄棍棒”を振り下ろすも、大剣で、
ガキィンッ!!
と、防がれてしまう。
そこへ、【破壊】を用いたミノタウロス元帥が、バトルアックスを右から左へと払った。
[豚の王]がグレートシールドで受け止めたものの、全体の3分の1ほど(上部)に〝ビキビキィッ!〟と亀裂が入っていき、
バッキィインッ!!
と割れたのである。
これには、敵と、俺が、それぞれに、
「なッ?!」
「おおーッ!!」
と、驚いた。
「オークウォリアーの、鋸みたいな剣には通用してなかったのに??」
と首を傾げる俺の左隣に並んだ勇者が、
「おそらく、あの時は、同じスキルがぶつかっていたからでしょう。」
「もし、オークロードが“防ぎきる者”を使っていたなら、盾は壊れなかったかもしれませんが…、その暇を与えなかったのが良い結果に結びついたと言えます。」
と述べたのである。
「むぅ~ッ!」
と低く呻いたロードの顔面を、炎・氷・水・風・雷が、次から次に〝バンッ!〟〝ズシュッ!〟と急襲していく。
それらは、魔銃によって撃たれていた。
「くッ!」
と、視界を塞がれた[豚の王]の頭上1Mぐらいの位置に、直径2Mの魔法陣が現れ、幅4㎝×長さ20㎝の【光線】が、50本ほど、
ビュンッ!ビュンッ!ビュンッ!ビュンッ!
と降り注ぐ。
そう、これは、聖女によるものだ。
更に、オークロードの正面にも、直径2Mの魔法陣が、上下で展開された。
そして、上からは魔人姉が“風の矢”を、下からは魔人妹が“水の矢”を、50本ずつ放ったのである。
1本1本の大きさは、やはり、聖女のビームと同じくらいだ。
ラージソードを杖代わりにしたロードが、決して倒れまいと踏ん張る。
「主様、今がチャンスです!」
と、促す勇者に、
「ああ、直ぐにアイツを屠ってやんよッ!!」
と応える俺だった―。