第103話 豚の王たちとの戦闘・其之弐
俺の左斜め後ろの方から、
「主様―!」
「ご主君!」
「マスターサマァー!」
といった複数の声が聞こえてきたので、
(なんだ?)
と、振り向いてみたら、弟豚と対峙している遠隔チームが呼んでいた。
背中から竜の翼を出現させた俺は、5㎝ほど浮いて、ほぼ直立したまま、そちらに〝スーツ〟と向かったのである。
一年生書記や三年生ウィッチから説明を受けた俺は、
「成程…。」
「確かに、それであれば、この状況を打破できそうだな。」
〝ニヤリ〟と口元を緩めたのだった。
オークソーサラーが、四方や頭上に、炎・氷・水・風・毒などの魔法を、順次に放っている。
俺は、ソイツに向かっていきながら、勇者たちに、
「皆、下がれ。」
と命令した。
それに従った彼女らが、【シールドルーム】から離れていく。
「なんだ? 一人でやり合うつもりか?」
と、窺う弟豚に、
「まぁな。」
と返しつつ、俺は“防御室”ギリギリまで近づいた。
「何をするつもりかは知らんが、」
と、言いかける敵を、ガン無視した俺が、[大地の槍]の先端を地面に着けて、〝クルン!〟と右回転させたのである。
動物的本能だろうか?
全身に〝ゾワッ!〟と寒気が走った弟豚が、俺から見て左方に逃れようとした。
そこに、ボールペンみたいなフォルムをした最大幅2Mの歪な“土の柱”が、上に向かって勢いよく、
ズドオォ――ンッ!!
と、8Mぐらい伸びていったのだ。
それが体の左側にヒットしたオークソーサラーが、
「ぐおッ!!」
と弾かれた。
更には、その柱が、【シールドルーム】の天井に、
ビキビキビキビキビキィーンッ!!
と、亀裂を入れていき、
バリィインッ!!!!
と割って、貫通したのである。
ドサッ!
と、横倒れになった敵が、
「ぐッ、ぬぅ~ッ。」
と呻きながら起き上がろうとしたところ、〝ビュンッ!〟と駆け抜けた何者かが、顔面に、
ズバァンッ!!
と、前蹴りを当てたのだ。
そこから、続けて、パンチや、キックを、何発も、くらわせていく。
「ぬおッ!」「あがッ!」「ふぬッ!」「あぎゃッ!」と痛がる弟豚は、実に滑稽だった。
「空手? いや、テコンドー??」
と首を傾げる俺の方を見た女性武闘家が、
「ボクのは、“ジークンドー”スよ、主様。」
〝ニカッ!〟と笑みを浮かべる。
身長は157㎝~158㎝であろう、ショートの黒髪と、日焼けした小麦色の肌が特徴的だ。
青紫色を基調とした道着に、銀の肩当て/胸当て/籠手/脛当てを装備している。
所謂“ボクっ娘”である彼女は、某・眼鏡&蝶ネクタイで有名な少年探偵の物語に登場する[世良○純]みたいな印象だ。
あくまで、雰囲気の話しであって、そっくりではない。
決して。
なにはともあれ、その隙に、オークソーサラーが、
「うおおおおーツ!!」
と、渾身の力を振り絞って立ち上がるも、誰かが射った矢が、眉間に、
ストンッ!
と刺さって、仰向けに倒れゆくのだった―。