第1話 幕開け
麗らか春の日、暖かな陽光とそよ風が心地良い午前、俺たちは突然、見知らぬ場所に移動していた。
瞬時に。
その日は全校集会が開かれており、体育館が改修工事のため使用できなかったので、生徒達と各教師が第一グラウンドに集まっていたのだが…、気が付けば、西洋もしくはRPGを彷彿とさせる城の大きな庭園にいた。
俺たちの周囲にいた見知らぬ連中が、「おぉーッ」「成功しましたなぁ」と口々に発言している。
その中にいた50代の男性が、戸惑う俺たちの前に進み出た。
肩あたりまでの長さがある白髪交じりの黒毛は、天然パーマなのかウェーブしている。
鼻の下と顎に蓄えている黒髭も、ところどころ白い。
瞳は灰色がかった青色で、鼻筋が通った堀の深い顔立ちだ。
身長は170㎝程だろうか、まぁまぁ恰幅が良い。
白い縁取りのある重厚な赤マントを纏い、冠を被っているところから、〝王〟であろうと推測できる。
その男が、「ようこそ、異世界召喚者の皆さん」と、俺たちに挨拶したのだった…。
そこからは、俺にとって残念な日々になってしまった。
〝異世界召喚者〟と呼ばれた俺たちに、20人程の王宮魔術師が適性判断を実施する。
魔術師たちが所有している水晶に、全校生徒と教師たちが順番で手をかざしていく。
なんでも【ジョブ】や【魔法とスキルの有無】などが分かるらしい。
俺のジョブは【アサシン】で、スキルは【可視化】だった。
この世界では、自分のステータスを見る事は可能だが、他者のステータスを確認するのは不可能との話しだった。
しかし、【可視化】を用いれば自分以外のステータスも見ることが出来るのだ。
悲しいかな、俺のスキルはこれだけだった…。
同じジョブでも、人によっては幾つものスキルや魔法を持ち合わせているみたいだが、俺はモブキャラの一員でしかない。
これによって、生徒達も、教師陣も、それとなく格付けがなされていった。
ちなみに、生徒会長である三年生の女子が【勇者】との事だった。
文武両道に秀でている彼女の学校での成績は、常に1位か2位で、3位以下になった経験が無い。
身長は157~158㎝で、腰辺りまでの長さがあるストレートの髪は黒く艶やかだ。
容姿端麗な生徒会長や、彼女と同級の生徒達に、生徒会メンバーは、【特進コース】の優等生集団だ。
一方の俺は【普通科】である・・・・。
それはさておき、俺たち〝異世界召喚〟は、この国の兵士たちを相手に訓練させられる破目になった。
主に、大将軍・中将軍・小将軍による猛特訓が、城の大庭園にて、1週間に及んで行われた。
身長が155㎝と小柄で華奢な俺には、立ち上がるのもやっとな、憂鬱でウンザリな日々が続いたのだ。
その期間中に優秀な連中はレベルが5ぐらいになっており、それ以外は大体LV.3といったところだが、俺のような雑魚キャラ達はレベル2になるのがやっとだった。
将来有望な勇者様に至っては、LV.8であらせられる。
この後、俺たち【落ちこぼれ組】は、彼女のスキルで捨て駒にされてしまうのだった―。