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リトルウィッチの成り上がり  作者: ぱるぱる
第一章 子供時代
7/30

フルヴィエール領

馬車の中では少女は興味深そうに私に話しかけてきた。


「魔物の群れを一人でほとんど倒すなんてすごい魔法ね。どうやって覚えたの?」


「ええっと…家にある魔導書を少し読んで覚えました」


他愛もない会話だと思ったがセリーヌは口を滑らせたことに気が付いてなかった。

魔導書は高価なもので少なくとも庶民の家には置いていない。

その会話だけでセリーヌが高貴な出自だと少女は分かってしまった。


「魔導書を読んだだけなんであれだけ使えるようになるなんてすごいのね。

 紹介が遅れたわ。私の名前はナディア・フルヴィエールよ、よろしくね」


「フルヴィエール…」


その名前は私の行き先だった領地の名前と一致していた。

つまりこの少女は領主の一族の者なのであろう。


「あ、ええっと…私はセリーヌといいます」


あえてアントーニアの方の名前は伏せた。

こちらも名前だけでアントーニア家の者だとバレてしまうからである。


「そう、セリーヌと言うのね。身長も同じくらいだし私と同じくらいの歳かしら?」


「そうだと思います。私は少し前に8歳になりました」


「は、8歳…そう、年下なのにあれだけの魔法を……優秀なのね」


どうやら私は同じ年に見えたらしい。

床にぶちまけられたとはいえ食事はちゃんと与えられていたので身長はしっかりと伸びていたせいだろう。


その後は馬車で他愛もない話をし、何回か休憩を挟みつつ馬車を進め、夕方くらいになったころに目的の場所へと辿り着いた。


「なんて大きい…」


着いた場所はナディアの家、つまりはフルヴィエール領主の館であった。

思った通り、ナディアは領主の娘であった。

アントーニア家より爵位が上なのでセリーヌの家より大きいのは当然といえば当然である。


「ここまで私を乗せてくれてありがとうございます。それでは私はここで失礼します」


思いもよらず領都まで来てしまった。

ここまで来れば家の者は追ってこないだろう、たぶん。

それにここにはいっぱい仕事もある。

魔法が使えるんだから何かしら仕事に就けると思う。

そう思って立ち去ろうとしていたところで思いもよらず声が掛けられた。


「あら、私の家に寄って行って。私の家族に紹介したいの」


領都まで連れてきてくれただけではなく、館に招待してくれるらしい。


「いいんですか?私こんなに恰好も汚くて…それも領主様相手なんて」


こんな格好で領主に会ったらなんて言われるだろう。

私の義理の母は庶民に対してよく汚い臭いと言っていた。

私の今の恰好はそれとあまり変わらないだろうに。


「もちろんよ。私の命の恩人だもの」


ここの領主は優しいのだろうか?

もしかしたらご馳走になれるかもと思いつつ領主の館に入っていった。

正直私は美味しい食事には飢えていた。

ここ数年は食べられなかったがエヴァ達が美味しい食べ物を食べているのをいつも見ていた。

それに最近は樹海で適当に取った食材ばかり食べていたのもある。


館に入ると私はすぐに浴室へと送られた。

やはり汚い恰好で領主に会わせる訳にはいかなかったのだろう。


久しぶりのお風呂は非情に気持ちよかったので私にとっても大歓迎であった。


お風呂から上がるとメイドから渡された服を淡々と着た。

もしかして私用に用意してくれたのだろうか。


「あらあら、なんて可愛らしい。まるで絵画から出てきたようですね」


他人から褒められたなんて初めてである。

お母さんやお父さんはよく可愛いと言ってくれたが身内贔屓だと思ってた。

エヴァはよく私にブスと言って吐き捨ててたし。


そのまま私は領主のいる部屋へと招待された。


「これはこれは。なんて可愛らしい娘なんだ」


第一声を発したのは渋い中年の男性であった。

座っている位置からおそらくこの人が領主なのだろう。


「あら?あなた…セリーヌちゃんじゃない?」


そう発言したのは領主の隣にいた女性だ。

座っている位置的におそらく領主夫人だろう。

セリーヌは思いもよらぬ発言にぎょっと目を開いてしまった。

まさか自分を知っている人がいるなんて。


「お母様、セリーヌを知っているの?」


「知っていたのか?」


「知っていたのか?ってナディアはともかくあなたねぇ…隣のアントーニア領の領主の娘の顔くらい覚えておきなさいよ」


私のことを知っていたのか、社交の場とかにも出たことないのに。

さらに領主の子とはいえ母が死んでからはほとんどその存在を隠されていたというのに。


「そうだったか?こんな顔だったか…?」


「ああ、セリーヌちゃんはオレリア様の子よ」


オレリア…お母様の名前だ。

隣の領主なだけに交流があったのだろうか。


「お母様のことを知っているのですか?」


気になってしまってつい聞いてしまった。

ここで黙っていれば言い逃れもできたかもしれないというのに。


「あなたのお母さんは私の学園時代の先輩でね。学園中の憧れになるくらいかっこ良かったわよ~!そうそう、あなたが赤ん坊の頃に私が抱いてあげたの覚えてる?お母さんに似てきたわねぇ!」


どうやらお母様の昔の知り合いらしい。

さらには私が赤ちゃんだった頃に会っていたみたいだ。

流石に赤ちゃんの頃の記憶など覚えているはずがない。


「あれ?でもセリーヌ。あなたは戻る家がないって言ってたじゃない」


ナディアが首をかしげてセリーヌに質問をする。


「あ、ええっと…ごめんなさい、あれは嘘でした。本当は家出して…」


セリーヌは顔を俯いて答える。

もう逃げきれないと観念して正直に話してしまった。


「家出か、それは良くないな」


領主の男がそう呟いた。

だが、彼はせいぜい両親と喧嘩して勢いで家出した程度だと考えていた。


「ただ、私があの家に居場所がないのは本当です。もう戻る気はありません」


セリーヌは毅然としてそう言った。


「まぁ、そこまでいうなんて…ずいぶんと大喧嘩したのね」


ナディアもくすくすと笑っていた。

彼女もセリーヌは家族と喧嘩して家出したと考えていた。


セリーヌはそういうことじゃないと言い訳したかったがやめることにした。

彼女自身、ナディア達をそこまで信用していいか分からなかった。

むしろ、落ち着いたらアントーニア領へと連れ戻そうとする敵なのではないかと

考えていたところである。


「は、はい…そんな訳で私はもう少し頭を冷やそうと思います。それでは失礼します」


そう言ってセリーヌは部屋を出ようとした。


「まぁ待ちたまえ。ナディアを助けてくれたお礼だ。頭が冷えるまで

 この館にいてくれても構わないぞ」


領主の男ははっはっはと声を挙げて笑いながらそう言った。


「本当ですか?それでは…」


セリーヌは少し考え込んで言葉を発した。


「私を雇ってくれないでしょうか。魔法は使えますし、雑用でもなんでもやります」


「「「へ?」」」


思いもよらぬ言葉にフルヴィエール領主一家は揃って間抜けな声を出してしまった。



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