言い訳
私は少し休んだ後、馬車のもとへと向かった。
馬車の周りでは護衛の人が休んでいたようだった。
どうやら残りのシルバーウルフは全て倒すことができたらしい。
馬車の近くまで行くと、護衛の一人が私の存在に気付いた。
「そこにいたのか。さっきは本当に助かった!それで、あのでかいシルバーウルフは撒くことができたのか?」
護衛の人は私にそう言うと周りをきょろきょろと見渡し始めた。
「ああ、ボス…あの大きいシルバーウルフなら倒しましたよ」
「本当か…?そんなまさか。あれは子供なんかに倒せるレベルの魔物じゃないぞ。本当にそうなら倒した場所まで案内してくれないか?」
「はい。分かりました」
子供がボスを倒せたことが信じられなかったのだろう。
セリーヌ自身、運良く倒せたのだと思っている。
樹海の中を少し歩いていくと倒れているボスの姿が見えた。
死体となっても大きいだけあって威圧感があった。
「これはすごい…!信じられない!」
護衛の男は目を丸くして倒れているボスの姿を眺めた。
「さっきシルバーウルフの群れに向かって魔法を放っていたのも驚いたが、おまえ…何者だ?なんでこんなところにいるんだ?」
護衛の男はじろりとセリーヌを見た。
「えっと…私は捨てられて……」
領地を出た後にどういう言い訳をするかは考えていた。
領民が勝手に領地を出るのは許されてはいない。
領主一族がそれに当てはまるかは分からないが、家出となるとだいたい同じ扱いになるだろう。
そのため、馬鹿正直に家が嫌になって出て行ったなどと言うことはできない。
貧しい領民が子供や老人を山に捨てるのは珍しくない出来事だと聞いたことがある。
その顛末については分からない。野垂れ死ぬのがほとんどであろう。
だが彷徨った結果、他の領地に行ってしまうことがあってもおかしくないはずだ。
そのため、私は捨てられた子供として身分を偽ろうとしていた。
「そんな馬鹿な。あれほどの魔法を使える子供を捨てるだと?そんなことをするのはどこの貴族だ?」
うっ…そうなんだ。
確かにアントーニア家では魔法を使える者はほとんどいなかった。
セリーヌは家からあまり出たことがなかったため若干常識に疎いところがあり、その希少さに気づいていなかったのだ。
「私のお母様は死んじゃったから…今のお母様は私に優しくしてくれなくて……」
言葉に詰まった私はつい本当のことを言ってしまった。
「そうか…」
護衛の人はそれ以上私に追及してこなかった。
「それにしてもこの魔物は相当大きいから魔石も良い物を持っているだろう。きっと高く売れるぞ」
「本当ですか?」
そういえば魔物の素材は売ればお金になると聞いたことがある。
「そうなのですか。それではこの素材はあげます」
「え、本当か?」
自分だって今お金が欲しいのは確かだ。
だけど
「その代わりのお願いになるのですが、私を近くの街まで連れて行って頂けないでしょうか?このままここにいても死んでしまいます」
この言い方だとアントーニア領に連れて行かれてしまう可能性もあったが、
フルヴィエール領と敢えて指定してしまうと怪しまれると思った。
だが今の位置がフルヴィエール領に近いことは分かっており、馬車の向き的にもフルヴィエール領が行き先だと思われることからアントーニア領には向かわないと確信があった。
なるほど、と護衛の人は納得したがすぐには答えられないとのことだった。
馬車に乗せている雇い主の許可が必要と言われてしまった。
やはり貴族の人とかが乗ってるのだろう。
ボスの体は大きく人間が担げる重さではなかったため、重力魔法で浮かせながら男と一緒に馬車の所へと戻っていった。
馬車がある所へ戻ると、馬車の中から小さな女の子が出てきてた。
「あなたが私を助けてくれた女の子かしら?」
その少女は水色の髪をした透明感がある可愛らしい娘であった。
素人目で分かるくらい良い素材の服や装飾具を身に着けていたので貴族の娘であろう。
「あ、はい」
事実とは言え自分でそう言うのは少し恥ずかしい。
「本当にありがとう。あのままだったら私達は死んでしまっていたかもしれないわ。この森に魔物が出るのは知っていたけど、まさかこんなに大量の魔物に囲まれるなんて。しかもこんな大きな魔物までいたのでしょう?」
その少女は重力魔法で宙に浮いているボスを指さしてそういった
「え、ええ…私も倒せるとは思いませんでした」
「すごいのね。私と同じくらいの子なのに…どこの家の方なのかしら?」
この少女も私のことを貴族の子供だと思っているらしい。
庶民だとしてもよほどの有力者の家の者でなければどこの家が聞いても分かるはずがないからだ。
「私はええっと…戻れる家がなくてですね。可能であれば近くの村か街まで私を連れて行って頂けないでしょうか」
失礼かもしれないが私は無理矢理話題を変えてしまった。
「えっ…ああ、そうね。もちろん大歓迎だわ。さあ、馬車に乗って」
何か言いたげだったが恐らく私のことを察してくれたのだろう。
小さな女の子がこんな場所に汚い恰好でいる訳だしね。
「お、お嬢様…」
護衛の一人が何かを言いたげな様子でちらっと私を見る。
言いにくいことを言いたさそうな感じだ。
おそらく私が怪しいだとか汚い恰好とかで一緒に馬車に乗せたくないんだろうな。
水浴びはしていたが二週間近くこの樹海で生活していたのである、仕方ない。
「御者の方の隣が空いているみたいですね。私はそこに座らせて頂けるだけで十分です」
そう言って私は馬車の前の方に行こうと思うと少女に道を塞がれた。
「いいえ、遠慮しないで。聞きたい話もあるし是非馬車に乗って行って頂戴」
その言い方は少しで強めで有無を言わさぬ感じであった。