脱出計画
次の日に得た能力もまた特殊なものだった。
肉体が龍のように強化されるらしい。
これでエヴァに叩かれても大丈夫になるかも?
いやいやそうではなくて。
確かにそれも大事ではあるが、この家を出るためにこの力を役立てよう。
この能力のおかげで体も動かしやすくなって大人並みに早く走れるだろう。
だが、それだけではダメだ。
ただこの家を出て行ったところで野垂れ死ぬだけだ。
生きていくためにはお金が必要だ。
そのためには仕事を得なければならない。
大人並みに力があっても子供が簡単に仕事を得られる訳ではない。
大人の方が信用もできる訳であり、こんな怪しい子供を働かせるなんて滅多にないだろう。
「やはり魔法しかない…と思う」
セリーヌはそう呟いた。
この世界で魔法を使える者は貴重である。
魔法を使えるだけで仕事を得ることができ、貴族にも仕えたりできる。
しかし、数が足りないため専属ではなく、必要な場所へ派遣させられる傭兵のようになる場合が多い。
だからこそ子供であっても魔法を使うことができれば雇ってくれる人はいるだろう。
そのためにはお母様が残してくれた魔導書
あれをもっと読み込んで多くの魔法を覚えることが必要だとセリーヌは考えた。
その夜、こっそりと書庫に向かうセリーヌ
「皆もう寝てるよね…?」
蠟燭代も馬鹿にならないのだ。
アントーニア家の者は夜更かしはしない。
「そっと…そーーーっと…」
慎重に書庫へと向かおうとした。
しかし、館自体が古いせいだろう。
キィィィィィ…
扉を閉じる際に大きな音が屋敷内に響き渡った。
「やば…」
そう思ったのも束の間、後ろから声を掛けられた。
「あらっお嬢様。こんな夜中にどうしたんですか」
どうやら声を掛けてきたのは使用人らしい。
物音がしたため泥棒かもしれないと様子を見に来たのだった。
「あの、ちょっとお手洗いに行きたくて…」
「それでしたら私も付き添いますよ。夜中だと怖いと思いますし」
必要ないよと言いたいところだが、見つかった時点で本日のミッションは失敗なのである。
お手洗いで用を足したふりをし、その後は諦めて寝ることにした。
今回の失敗踏まえた結果なのだろうか。
次の日得たのは暗殺者の能力だった。
ぶっそうな能力だが、隠密性に優れた能力を得ることができるらしい。
ギフトの力関係あるのかなと昨日音を出してしまった扉を開け閉めしたところ、なんと音を出さずに行うことができた。
昨日音を出して失敗してしまった私にはうってつけの能力である。
暗殺者ってこんなこともできるのかと感心してしまった。
存在感を消すこともできることから、その日は食事の時以外はエヴァに
見つからずに済むことができた。
屋敷の住民が恐らく寝静まっているだろう時間になると
セリーヌは起き、今日も書庫への忍び込みを決行した。
ヒヤヒヤはしたが、問題なく書庫に入ることができた。
書庫は光が入らないようにしてあり、廊下よりもさらに真っ暗で少し不気味な雰囲気であった。
暗殺者の能力のおかげで暗くてもそこそこ見えはしていたが一応魔法で光を出し、周り見える状態にしてから目的の本がある場所へと向かう。
「ええっと…確かその辺に」
記憶を辿りにお母様が残した魔導書の方へ向かっていった。
「よし、全部覚えるぞ…!」
この家を出て行ったら何が必要になるか分からない。
だからセリーヌは全部覚えようと魔導書をがむしゃらに読み込んだ。
この屋敷にある魔導書は全て初級魔法の魔導書であるが、人には魔法の適正がある。
そのため、一つの属性の魔法しか覚えられないことが多い。
だから全部の魔法を覚えようとするのは無謀ではあるが、セリーヌはそれを知らなかった。
だが、そんな無知であり無謀であることが不可能を可能にするのであり、彼女を異質の存在に仕立て上げるのであった。
一ヶ月後、セリーヌは書庫にあった全ての魔導書の魔法を使えるようになった。
普通はそんなことはできないが、ギフトの力がそれを可能にしたのと、この家を絶対に出なくてはいけないという強い意志があったからこそできたことであった。
「明日、この屋敷から抜け出そう」
魔法を使えるようになったらすぐに抜け出そうと彼女は前からずっと決めていた。
計画は練っているが所詮は8歳の子供が考えたことである。
不安でしかなかった。
計画内容としては明日の夜にこの屋敷を抜け、隣のフルヴィエール領へ行くつもりであった。
そこでなんとか仕事を見つけ出そうと考えていた。
当てはないが魔法が使えればなんとかなるだろうという甘い考えではあったが。
館を抜けることについてはあまり大変だと思ってはいない。
門番がそこまでちゃんと仕事をしていないのを知っているし、暗殺者の
能力で気配を消すことだけで十分だからだ。
脱出に関しての第一の課題として税関が挙げられる。
こんな子供が馬鹿正直に行っても税関は通してくれないだろう。
そもそも通行税なんか持っていないので普通のルートでは抜け出せない訳なのだが。
そのため、税関から少し離れた樹海を通ってフルヴィエール領を通るつもりだ。
その樹海は魔物も生息しており危険なため、普通の人間は通らない。
魔物に関しては覚えた魔法で対処するしかない。
さらに、セリーヌはこの一ヶ月で魔法の他にも頼もしい能力をいくつも手に入れていた。
その中でも最も重要なのが状態異常完全耐性である。
これのおかげでたとえ毒を食べたとしても耐えることができる。
そのため、樹海を通ったとして何でも食べることができるので食料には困らない。
美味しくはないだろうが、飢えずには済むだろう。
これがセリーヌの考えている脱出案だった。
週に一度くらいのペースで投稿できたら良いなと考えています。
よろしくお願いします。