決意
「一日一回、人並外れた能力を得ることができるギフト…か」
それが彼女が女神から与えられた力であった。
今日は成長速度を促進させる能力を手に入れたらしい。
だがしかし、何を成長できるというのだろうか。
今の私には力もないし魔法も使えない。
あえて言うならストレス耐性が高いくらいだろうか。
そんなことを冗談でも考えたのが悪かったのだろうか。
今日のエヴァの機嫌はいつも以上に悪かった。
セリーヌは髪を引っ張られながら館中を引きずりまわされた。
痛い、やめてと何度も叫んだが全く聞き入れてくれなかった。
女神様はこのままずっと耐えて生きていけと私に試練を与えているのだろうか。
明日はもっと良い能力がもらえますように…
次の日に得た能力は良さそうな内容だった。
詳細を確認してみると魔法関連の能力が一気に向上するらしい。
私も魔法を使える…?
体に今までなかった何かの力が溢れているのを感じる。
おそらく魔力が増えたせいだろう。
しかし、よく考えてみると私は魔法の使い方を知らない。
「そういえば書庫にお母様が残してくれた魔導書があったような…?」
書庫に行ったもののセリーヌは文字が読めない。
貴族ならセリーヌくらいの年齢の子には読み書きを教えるはずであるが、
ジャクリーヌがセリーヌにそんなことをするはずがなかった。
そのため、本がどの内容なのか判断できないが、セリーヌの母が残した本の格納場所は知っていた。
本当はジャクリーヌは破り捨てたいと思っていたが、魔導書は高価なものであり、役に立つかもしれないため残していた。
「確かこれだったかな…?」
確かに魔導書っぽい見た目をしている。
中を開いてみると、何やら分からない文字がひたすらと書かれている。
「ん?でもなぜだか分からないけど読める…?」
魔導書というのは文字で書かれているように見えて文字で書かれていない。
本当は人が読める文字で書かれているのは一番だが、人が読める文字でつらつらと手順を書いても魔法が使えるようになる訳ではない。
感覚的なところが大きいため、それを魔力に込め、本に閉じ込めたものが魔導書なのである。
そのため、魔導書に込められた魔力を感知することができれば感覚的に魔法の使い方を理解することができ、使えるようになるのである。
上級魔法になればなるほど、理解するのに必要な魔力が大きくなるため、難しくなのである。
セリーヌは魔法関連の能力が上がったため、この魔導書の内容を理解できるようになっていた。
ふむふむと集中して読んでいると、後ろから冷たい声が届いた。
「セリーヌ、何をしているのかしら?文字も読めないくせに本なんか読んでいる
暇なんてあって?」
その声の主はジャクリーヌだった。
表情だけ見ると怒ってなさそうだが、先ほどの声からすると明らかに怒っている。
「ええっと…なんとなく気になって…」
「まぁまぁ、そんなに暇なら倉庫の掃除でもしてもらおうかしら?」
拒否権などない。
そのまま倉庫の掃除をやらされた。
一人でやらされて大変ではあったが、精神的には楽な作業だった。
この仕事をしている間はいじめられないで済むからである。
「暗くてやりづらいなぁ…そうだ!さっき本で覚えた光魔法を使ってみよう」
手の平を上にしてシャイン…と呪文を呟いた。
そうすると手の平から光が現れ、部屋が明るくなった。
「これで掃除しやすくなったかも。頑張ろう」
そう意気込んで掃除を進めていった。
数刻が経ち、当初の予定よりかなり早く掃除が終わった。
「魔法って便利だな…」
そう思うと同時にセリーヌにはある考えが思い浮かんだ。
もしかしたら魔法をもっと使えるようになれば現状を変えられるかもしれない。
こんな家を抜け出すことも…!
だが、この考えは甘いことにすぐに気付く。
いつも通り踏みつけられたパンを食べさせられた時、くすくす笑いながらエヴァが呟いた。
「あなた、悔しくないの?」
「えっ?」
「まぁまぁ、こんなことされて何とも思わないなんて、本当惨めな人生ね」
食事が終わった後、セリーヌは自室でずっと考えていた。
確かにエヴァのその通りだ。
いつか現状を変えられる、なんて悠長な考えだ。
一歩進んで変えようとしなければ変わらない。
できるかできないかじゃない。
この家にいては自分に未来はない。
絶対にこの家を抜け出さなければならない、と。