長い一日 〜メアリSide〜
次の日、お妃教育の為王宮に上がったメアリをアーネストが待っていた。
「アーニー? どうしたの」
いつもならイーサンと共に執務室に入っている時間だ。
「イーサンから聞いた。エレノアが突然訪れて、いろいろ言ったようだな」
「ええ。最後は思い詰めたような表情をしていたわ」
「昔は穏やかで、いつも微笑んでいて、人を攻撃するような女性ではなかったのだが。いきなり君のところへ行くとは、私も驚いている。だから今日、ゴドウィン公爵家に行って話を聞いてくるよ」
行かないで欲しい、とメアリは一瞬思った。だが、それは自分のエゴだと考え直した。
「わかりました、アーニー。きっと、悩みを抱えてらっしゃるんだわ。力になってあげて下さい」
「ありがとう、メアリ。イーサンも連れて行くから心配しないでくれ」
メアリはふふっと笑った。
「大丈夫、絆されたりしないって信じてるわ」
その日の夜、メアリは話を聞きたくてイーサンの帰りを待っていた。だがイーサンは帰って来なかった。
朝になっても帰らなかったイーサンを心配しながらも、メアリはお妃教育のため王宮に向かった。徹夜明けではあるが、眠気など感じていなかった。
「あっ、メアリ様!」
いつも授業のスケジュール管理をしてくれているメイドのマリーがメアリを見つけて走り寄ってきた。
「申し訳ございません。本日のお妃教育は中止となりました。先生方にも先程帰宅していただいたところです」
「どうしたの? 何かあったの?」
「私は何も聞かされていないんですが、詳しい説明は王妃様がなさるそうです。こちらへ」
(どうしたんだろう。アーニーの身に何かあったのでは?)
胸がざわめく。不安な面持ちでメアリは王妃の私室に入った。
「メアリ、ごめんなさいね。ちょっと事故があって、アーネストが帰って来られないのよ。イーサンは朝早く参上して、私に事情を説明した後またゴドウィン公爵家に戻って行きました」
「王妃様、一体何があったのですか?」
手のひらに嫌な汗が滲んでくる。メアリはハンカチをギュッと強く握りしめた。
「エレノアが自殺を図ったの」
「えっ……」
「目の前で、毒をあおって。アーネストとイーサンがすぐに水を飲ませて毒を吐かせたので大事には至らなかったようです。二人はしばらくゴドウィン家に留まって様子を見るそうよ」
「なぜ……なぜ、そんなことを」
「アーネストと結婚したいと言ったそうです。それを断った途端、持っていた小瓶の中身を口に流し込んで。恐らく、最初からそのつもりで手の中に隠していたのでしょう。詳しい動機についてはまだわからないわ。メアリ、大丈夫? 顔が真っ青ですよ」
「あ……はい、大丈夫です。王妃様、アーネスト殿下が戻っていらっしゃるまで待っていても……構わないでしょうか」
「ええ、メアリ。心配でしょう。王太子宮で待ちなさい。帰ってくるまでずっといていいわ」
「ありがとうございます、王妃様。感謝いたします」
退室したメアリは、ガンガンする頭を堪えながら王太子宮へ向かった。エミリーがメアリを迎えてくれた。
「メアリ様! 今日は早いですね。どうなさったんですか?」
(エミリーさんは事情を知らないのね。ならば相談することは出来ないわ)
「エミリー、アーネスト殿下がお帰りになるのをここで待つことになっているのよ。でも少し頭が痛いから、休める部屋を用意してもらえるかしら?」
「大丈夫ですか? 顔色がお悪いですよ。すぐご用意いたします」
エミリーはアーネストの部屋の隣に案内してくれた。
「ここなら殿下が帰って来られたのがすぐわかりますからね。お薬も持ってきたからメアリちゃん、ゆっくり休んでなさい」
「ありがとう、エミリーさん……」
メアリは混乱した頭のまま横になった。
エレノアはなぜ毒を飲んだのだろうか。本当にアーネストと結婚したかったのか? まさか嫌がらせ?
(あの時……アーニーがエレノアのところへ行くと言った時、止めていれば良かったのかしら)
目の前で毒を飲まれたアーネストはどんなにか辛かっただろう。それを想ってメアリは涙を流した。
「メアリ」
優しい声で起こされた。
「アーニー?」
目を開けたメアリはアーニーの姿を見て飛び起きた。
「ごめんなさい、いつの間にか眠っていたのね」
「起きなくていい、メアリ。心配かけたな」
アーネストはメアリをまたベッドに寝させようとしたが、メアリはアーネストの首に抱きついた。
「アーニー! 辛かったでしょう。大丈夫なの?」
アーネストはメアリを愛おしそうにきつく抱き締め返した。
「私は大丈夫だ。エレノアの意識も戻った。今のところ、命に別状はない。イーサンと医者が側についていて、何かあったら知らせてくれることになっている」
何があったのか聞くべきかメアリは迷った。だが今は、傷付いたアーネストにこちらから聞くことはやめようと思った。
「アーニー、温かいわ……あなたの温もり、安心する」
「私もだ、メアリ。こうしていると何もいらない……そう思えるよ」
しばらくの間、二人は黙って抱き合っていた。
やがて、アーネストが口を開いた。
「昨日、エレノアを訪ねた時、やはり様子がおかしいことに気がついたんだ」
メアリは、少しずつ話していくアーネストに、頷きながら耳を傾けた。




