転生前の面談
初投稿です。よろしくお願いします。
「え?そうだったっけ?」
「はい、今回もそのような結末に。」
「……さすがにそんなこと、今まであった?システムの不具合?」
「いえ、誤作動などはなかったようです。単純に引きが悪かったとしか言いようがないです。」
こいつとはもう何年一緒に働いているか分からないけど、こんなことは一度もなかったけどもまぁ、せめてこの結末も意外だったようでさすがに……と思ったけど、相変わらずの無表情で淡々と伝えてくる。
「で、3度目の担当も俺なの?」
「えぇ、上からきっと説明しろ、って本人がおっしゃるんじゃないか、とのことでご指名だそうです。」
「ばかなの?」
何が悲しくて安月給のしがない公務員の俺がそんな悲しい報告をご本人にしなければならないのだろう。それがお仕事と言えばそうなのだけど、お給料もらってるからその分は働きますけど、この結末はさすがに説明しづらい!!
溜息をつくしかなかった。今更直訴したって上の方針は変わらない。仕方ない。
「それで、いつ来るの?」
「もう控え室だそうです。」
「ばかなの!?」
思わず白目を剥く。コーヒー飲んでたら吹いてたよ。危なかったよ。もう少し早く報告してよ。
「なんでそんなすぐなの?」
「そこはまぁ、調整きかなかったようですよ。」
「イミワカンナイ。」
「上もまさかそんなことになると思ってなかったようで。あ、これ前の資料です。」
「今朝の占い、射手座1位だったんだけど?」
「私が見た射手座は最下位でしたよ。」
「……チャンネル何番?」
「そろそろお呼びしてよろしいですか?」
「いやまだ!!待って!!心の準備が!!」
「資料手元にありますし、大丈夫ですよね。お呼びしてきます。」
「もうちょっとだけ待って!!読むから!!めちゃくちゃ読むから!!」
「10分後にお連れします。」
そう言って一礼をして退出していく。あぁ、こんな案件なのに何故10分しかないの?良い天気なのに何故。
資料とにらめっこしてると、ドアがノックされた。
「どうぞ。」
「失礼します。お連れいたしました。」
部下が一人の女性を連れて入ってきた。
「こちらにお掛けください。」
俺の前のソファに座った女性。え、待って。怒ってない?もう?
「担当官です。」
「イリスですわ。お覚えでしょうけどね?」
こっちを見た。美人の冷たい眼差し怖い。
「説明してくれるんでしょ?どういうこと?」
「今回、お亡くなりになったのは死刑ですね。」
「それは分かってるのよ!!何故3度目も死刑なのよ!!しかも同じような婚約破棄からの極刑!!!!」
さて、ここでもうお分かりでしょうが、目の前の美人さん。なんと3度も死刑。え?どういうこと?
ここは黄泉と呼ばれる世界。転生前にどういう人となりになるかランダムで決め、転生させる。そして死後、またここに戻り、の繰り返し。
目の前の美人さんもまた転生者の1人。しかし、なんとまぁ、婚約破棄からの極刑が3度も続いた珍しいパターン。え?こんなこと?ないない。しかも現世では後々無実だったと証明される。無実にも関わらず断罪され(婚約破棄も相手の男に新しい女ができて、邪魔になったパターン)、ここに戻ってきた。
「なんでアタクシ3度も?前回も2度目でびっくりしましたけども、酷くありません!?どうにかならなかったのハッピーエンドどこなのよ!!!」
あぁ、ご乱心。見て、怖い。
美人さんの裏に立つ部下を見る。無表情。助けて。
「しかも全部婚約破棄!!アタクシ何もしていないのに!!1度目?ロバートに新しい女ができて、いじめてるからって?2度目のジョアンも同じ。さすがに今回は気をつけようと思いましたわ、なのにまさかの婚約序盤にはもう結婚を約束してたって……ふざけないでよ!!いじめてもいないし、単純に別れを伝えづらいからって何もありもしないことで断罪しないで頂戴!!」
ここで何故、彼女に前の記憶があるからお教えしましょう。ええ、俺のせい。
今回の転生前の面談で「さすがに2度も婚約破棄からの死刑ですので、前の記憶を残したまま転生させて頂戴」とこれまたその時も怒っていた彼女の望みを通したのですよ……何やってんの俺。でもあの時も怖かったな……金髪で縦巻きロールがドリルのように見えたよ。やられるって思ったのよ。
「なんでこんな目に遭うのよ」
正しく俺も同じこと思っています。
「こちらもシステムの不具合かと思いましたが、異常なかったようです。単純に今回ご縁がなかったと言うか……」
「んなもんご縁も何もないでしょうが!!優しくしてよ!!もっと結末どうにかなったでしょ!!さすがにあの流れないわよ!!うまくいってる幸せになれると思った卒業パーティーの前のアタクシ!!不憫!!!」
ごもっとも。
さて、ここからどうしようか。
「一応、前回までと同様にこの後また転生となる予定です。」
「嫌よ!!もうこりごり!!だったらもっとマシな転生にして欲しかったわ!!その時に調整とかできないの!?」
「残念ですが、ここで決められるのは人となりです。さすがに途中での修正はこちらでは介入できません。」
「じゃあ、転生しない!!嫌よ!!」
「そうですよねー……」
「実は上から特例の措置も選択肢にある、と言われています。」
「は?」
「さすがにこのまますぐ転生も申し訳ないので、今回転生は延期にし、一旦こちらで生活してもらうってのはどうでしょう?」
「じゃあ、それでお願い。」
「え、早!」
「主任、言葉が乱れています。」
そんなこんなで彼女の4度目の断罪は回避された。
数日後、何故か俺に秘書が配属された。
「え?あれ?なんで?」
「今日からこちらに配属されましたイリスでございます。よろしくお願いいたしますわ。」
「ん?どういうこと?」
部下は相変わらずの無表情で「上からのお達しです」と答える。
「アタクシ、これでも令嬢を3度も経験しておりますし、内2度は王族との婚約もしておりました。王妃になるために多少なり勉強もしてきましたし、他にも大商人との婚約中にも経営などの勉強もしておりました。刺繍やお茶会よりもそちらの方が楽しくて仕方なかったので、ここで様々なことを学び、生かしていければと思っております。もちろん、お茶を入れることも得意ですわよ?」
「とのことです。」
「うそぉん。」
「こちらで楽しいことばかりだと転生しにくくなりそうですね。」
「楽しんじゃダメじゃん。」
「せっかく前世まで大変だったのですよ?少しは気分転換!さて、よろしくお願いいたしますわ、主任。」
そんなこんなで美味しいお茶を入れてくれたり、思いの外仕事がめちゃくちゃ出来てものすごく捗ったり、美人さんは仕事出来ることが認められて何故か上のお気に入りになって、秘書からの異例の大出世で俺の隣室の担当官に昇進したり、愛だの恋だのに発展したかどうかはここでは言及しない。
お読みいただき、ありがとうございました。
続きとなる「転生前の面談、その後(https://ncode.syosetu.com/n1851ga/)」を掲載しました。
よろしければ、またお付き合いください。