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●浅倉美玖



 遊園地のカフェテラスでふたりの女子高生探偵が睨み合う。


わっちの友達である黒髪ロングの美少女・森屋穂花ちゃん。

状況が理解出来ず少し戸惑っていた。


そして向かえるはツインテールツンデレ娘であるSNS探偵マシュマロ様こと阿達マシロちゃん。

彼女のコスプレはおそらく女性版エルキュール・ポアロ。やはりスカートの丈が短い。


テラスにいる他のお客さんが心配そうに見ていたから、とりあえずふたりを落ち着かせて席に座らせる。

マシロちゃんは先ほどまで兄のムクロさんが座っていた席。

机に置かれたコップに視線を向けた。


「これ、あにきが頼んだカフェ・オ・レ?」


「たぶんそうっす」


「もったいないことするなし」


残っていたカフェ・オ・レを一気飲みした。

『間接キスっすね』と茶化そうかと思ったが本気の顔面パンチが飛んできそうだからやめておく。

それに肩で息している。走り回ったのかのどが渇いていたのだろう。


「で、なんでザコどもがここにいるし?」


「むう。それはこちらのセリフだね。君も兄とグルなのかな?」


「質問してるのはこっちだし。これだから頭の中がお花畑な奴は使えない」


「かっちーん!……ああ、そっか。君なら『愚妹』でも納得だねっ!」


こらこら穂花ちゃん。君までケンカ売ったら収拾がつかないじゃないっすか。

バチバチっと火花が散った。

とりあえずここは年長者が折れるのが無難だろう。


「わっち等は普通に遊びに来たんすよ」


「……なんであにきといたし?」


「それを聞きたいなら、マシロちゃんがどうしてここにいるか教えて欲しいっす」


「ザコには関係ないじゃない」


「ところがどっこい、関係あるんすよ。……だから敵か味方か確認したいんす」


優しく笑って見せる。穂花ちゃん曰く『へにゃっとした胡散(うさん)臭い笑顔』。

マシロちゃんは不機嫌にため息をつき。


「ずっと報道されてるから知ってると思うけど『阿達ムクロがベストセラー推理小説家・愚昧灰荘』なんてことになってる。あの会見からあにきが家に帰ってきてないの。しかも電話にも出ないし。……なんでこんな馬鹿げたことしたのか聞きたいっていうのに。あのばかっ」


「なのになんでムクロさんが遊園地にいるって分かったんすか?」


「パブリックサーチでしょ」


隣に座っている穂花ちゃんがぽつりと呟く。


【パブリックサーチ】。

SNSで有名人や友人の名前を検索すること。エゴサーチの他人版。


確かにイケメン俳優の阿達ムクロが遊園地にいたら隠し撮りとかがSNSにあげられるかもしれないし、少なくとも『そっくりさん発見!』みたいな投稿がありそうだ。

その信用度の低い証言を頼りにここまで辿り着いたということ。

普通にすごいんすけど。


「次はそっちよ。早く言えし」


「ホノが愚昧灰荘のライバルだからだよ」


『はあ?なに言ってんのコイツ』というマシロちゃんの顔。

そうして穂花ちゃんは愚昧灰荘との因縁を語り始めた。

長くなるから飲み物を注文する。

穂花ちゃんはホットミルク。わっちはカモミールティー。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 推理ゲームのこと。愚昧灰荘の挑戦状を受け取ってからの今までの出来事を大雑把だけど分かりやすいように語った。


はじめのうちは下手な作り話を聞いているような呆れた顔を浮かべていたマシロちゃんだったが話が進むと真剣な顔つきに変わっていた。


「ホノが正体を暴く前にあの会見が開かれたってわけさ」


「推理小説家と知恵比べね……お花畑ザコが探偵に選ばれた理由は母親が毒舌批評家だったから。愚昧灰荘である可能性がある容疑者何人までしぼれたわけ?」


「その口ぶりからして灰荘はムクロさんじゃないと」


ぎらっと睨まれた。

今にも『これだからザコは』とか言ってきそうだ。


「少し考えたらバカでも分かるし。幼少期から芸能界を生き抜いてきたあにきに推理小説を書いてる暇なんてない。それに自分が書いた小説の主人公を自分で演じるなんて道化もいいところよ」


「灰荘と同じ筆跡だったなのはどう説明をするんだい?」


「あにきは完璧主義なの。どういうわけだか知らないけど、愚昧灰荘だと偽ると決めたなら筆跡だって完全に真似る。……そもそも比べる対象にしてるサインだって本物だと確証持てる?」


珍しい。口喧嘩で穂花ちゃんが負けている。

「……ぐぬぬ」と焦りを見せた。


言われてみたらそうだ。

もしも阿達ムクロが愚昧灰荘ではない場合、藻蘭先輩は偽りの証明をしたことになる。

そうなると彼女が『本物です』と言っていた、愚昧灰荘のサインですら偽物の可能性が出てきてしまう。


つまりそれは、


「お花畑ザコが知恵比べしてる愚昧灰荘って本当にいるの?」


それこそ頭によぎった最悪のシナリオ。

穂花ちゃんと推理ゲームしている推理小説家(はんざいしゃ)・愚昧灰荘が存在しているのか怪しくなる。

ベストセラー作家を語る偽物か。

わっちたちは形のないものを追っているのかもしれない。


「実在してるよ。あの暴君作家は」


思考停止してしまいそうなわっちだったが穂花ちゃんの自信満々の声を聞く。


「私のあにきが愚昧灰荘だから、とか言うつもり?」


「その可能性は否定出来ない。でもそれだけじゃないかな」


「ならどうして本人が名乗り出ないわけ?愚昧灰荘の小説を読む限り、プライドの塊。すぐにでも覆面(ふくめん)作家をやめて名乗り出るはずだと思うし」


「同感だね。そしてそれがなによりも実在すると言い張れる証拠なんだ。仮にも君のお兄さんが灰荘でないなら本物は声明を出さなくちゃいけない場面、なのに出版社は沈黙。どう考えても本物の愚昧灰荘には得がないのに」


「……どうしても正体を明かせない人物か、あにきと利害が一致している」


ふたりは納得したように頷いた。

わっちにもどういうことだか教えてくれるだろうか。置いてきぼりである。


「それに推理ゲームで出会ってきたクセの強い作家たちをまとめられる人物なんてまともじゃないからね」


あ、その言葉で理解する。

彼らを率いることが出来るのはそれこそ愚昧灰荘だけかもしれない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ひと段落したところでわっちたちは飲み物をこくりと。

遊園地ではどんなものでも美味しく感じる。

これは気持ちの問題なのか、単に高級材料を使っているからなのか。おそらく両方っすね。


「大体分かった。またあにきは事件に巻き込まれているってわけね」


「それか本当に犯人だってことっす」


「もうめんどくさいからザコどもはそう思っていればいいし。それで、容疑者はどれくらいいるの?」


「君のお兄さんを入れて()()だよ」


「ムクロさん。霧崎(きりさき)十九(じゅうく)恋鳥(こいとり)(さだ)。ジョアンナ・マリー。鉄戸(てつど)晩日(ばんび)。帝一さんっす」


むぎゅうむぎゅう。

ふたりにほっぺをつねられる。


仕方ないじゃないか、少しでも怪しければ等しく容疑者っす。

穂花ちゃんもマシロちゃんも『灯台下暗し』。

だから真実を取り零さないためにもわっちが疑ってあげているのだ。


「なるほど。確かにお花畑ザコの兄以外は大物揃い……調べるとしても厄介ね」


「てやんでいっ!にぃにだってすごいもん!料理だって美味しいし、優しいし!」


「穂花ちゃん、張り合わなくていいっすから」


すごい速度で指を動かしてパブリックサーチ。

情報収集し始めた。まさに最先端な探偵。

しかし特に役立つ情報はなかったようで不機嫌そうに立ち上がる。


「あにきはもうこの遊園地にはいないだろうし、私は帰るわ。なにか情報が入ったら教えなさいよ」


「じゃあ君も情報共有してくれるよね」


お互いに挑発するように笑った。

正反対のようで意外に似てるんだよなあ。

人付き合いが苦手なところとか、負けず嫌いなところとか、お兄ちゃん大好きなところとか。



「もし良かったら、マシロちゃんも一緒に遊園地で遊ばないっすか?」



帰ろうとする彼女を呼び止める。

振り返った顔はとても嫌そう。

穂花ちゃんも目をぎょっとさせて首が取れる勢いでぶるんぶるんと振っている。


家にムクロさんがいないなら、帰っても寂しいかもしれない。

だったら一緒に大騒ぎした方が気分転換にもなるだろう。


「……ふんっ、別にいいけど」


マシロちゃんは長いツインテールを揺らして顔をそらす。

気恥ずかしいのか耳が真っ赤になっていた。

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